土曜深夜に寄り添うドラマ「いつかティファニーで朝食を」

4人の女性の葛藤と希望が
週末の眠りの前に染みる

「ティファニーで朝食を」といえば、オードリー・ヘップバーンの代表作のひとつの古典的名画だ。公開は1961年。観てなくても題名は聞き覚えある人が多いだろう。黒いドレスに長手袋のオードリーのヴィジュアルや、彼女が劇中で歌った「ムーン・リバー」も知られている。
勘違いされがちなのは「ティファニー」はレストランではなく、ニューヨーク5番街にある高級宝石店。オードリーがそのショウウインドウを眺めながら、デニッシュを食べるシーンがあった。
今、土曜深夜に「いつかティファニーで朝食を」(日本テレビ系)というドラマが、ひっそり放送されている。午前1:25~となっているが、ラグビーやサッカーが入って、よく3時過ぎからに。トリンドル玲奈が演じるアパレル会社のOL・佐藤麻里子ら、アラサー女性4人の群像劇だ。それぞれに葛藤を抱えながらの。
麻里子は子どもの頃、母親が作ったテーブルいっぱいの朝食を食べて育った。7年間同棲している彼氏とはすれ違いの生活。「朝ごはんを毎日一緒に食べようね、って約束したのに!」と訴えると、「麻里子だって最近全然ヤラせてくれないじゃん」と返されて気持ちの糸が切れ、別れを決めた。引っ越した部屋は家賃が高くて、貯金がたまらない。仕事をやめようかとも悩んでいる。
バーの雇われ店長の阿久津典子(森カンナ)は店のオーナーと不倫中。深夜に閉店してから別れ話を切り出すが、結局ズルズルと関係を持つ。「たまには朝ごはんをゆっくり食べよう」と誘うと「また今度」といなされ、「ヤッたらさっさと帰りたいんでしょう!」と憤る。早朝の立ち食いうどん店で出勤前のサラリーマンたちと並んでおにぎりを頬張りながら、1人涙する。
そういったストーリーだが、毎回最後は実在のレストランやカフェでおいしそうな朝食を4人で(または何人かで)食べる。「やっぱりいいね。朝からおいしいものを誰かと食べるって」と、麻里子は声を弾ませていた。
このドラマの途中で「TVer」のCMが流れる。民放5局で立ち上げた公式ポータルで、各局で放送した番組を一定期間、無料配信している。局ごとの見逃し配信もある。今やテレビ番組は好きなときにネットで観られる時代。だが、もともとは放送時間帯に合わせて作ったはず。「いつかティファニーで朝食を」は、まさに土曜深夜に観てこそ胸に染みるドラマだ。
同世代の女性は共感するだろうが、中年のオッサンにも同じ思いはある。たとえば、週末の飲み会。そこそこ盛り上がるが、考えたら日ごろの愚痴をブチまけただけ。誰かが景気いい話をすれば妬んでいる自分がいる。どこで間違えたのか、ちっぽけな人生。終電に揺られて溜息をつき、帰宅してテレビをつければ、麻里子たちも「みんなはどんな人生を送っているんだろう?」「私はどうしたいの?」などと自問している。
客観的に観れば陳腐なドラマかもしれない。美女たちの不遇はリアルさを削ぐ。最後のレストラン情報の紹介がCMくさくもある。でも、少し頭がボンヤリした土曜の深夜に、そんなことはどうでも良い。悩める麻里子たちはおいしそうな朝食を食べながら「答えを出すことがゴールじゃない。ずっと戦っていかなきゃいけない」「何も変わらないかもしれないけど、飛び込んでみないとわからない」などと気持ちを切り替えて、新しい1日に向かう。こっちもちょっと安らいで、眠りに落ちる。
「ティファニーで朝食を」に付いた「いつか」。それはきっと誰の胸にもある。いつかマンションの高層階から夜景を。いつか恋人と冬の並木道を。いつか客船で船旅を。そんな「いつか」への憧憬を、ひととき呼び起こしてくれるドラマ。麻里子たちと僕らは週末の迷い道で、きらめきのときを夢見る。

ライター・旅人 斉藤貴志