2人組アイドルの危機とWHY@DOLLの可能性

 だいぶ前の話だが、アイドリング!!!のエース格だった横山ルリカが2013年6月にソロデビューした際、1stシングル「Walk My Way」はオリコン12位だった。健闘ではあるが、この週の10位にはインディーズだった愛乙女★DOLLが入っていた。横山ルリカのデビューがインディーズグループより下位という。さらに1位はNMB48、6位がBerryz工房、7位がBABYMETAL、11位にチームしゃちほこと、上には他にもアイドルグループが。
 何だかんだとアイドルブームは5年以上続いているが、あくまでAKB48を頂点にしたグループのブーム。ファンが“会いに行ける”ことを重視するなか、握手会を特典にして複数買いを煽り合えば、数をこなすのに限度があるソロはビジネス的に不利となる。横山ルリカでさえ、売上げ枚数では愛乙女★DOLLに負けたぐらいに。
 故にソロのアイドルはめっきり減った。とはいえ、グループからのソロデビュー、剛力彩芽のような女優からの歌手デビュー、きゃりーぱみゅぱみゅのようなカワイイ系アーティストまで含めれば、それなりに出ている。本当にドッと減ったのは2人組アイドルだ。
 2人では“グループ”といっても、握手会を回す効率はやはり悪い。それでいて、ソロのように個人名義のステイタスもない。遡ればザ・ピーナッツから、ピンク・レディー、うしろゆびさされ組、BaBe、Wink、W(ダブルユー)……と築かれてきた伝統が断ち切れるのは由々しき問題だ。まあ、若い人は知らないかもしれないけど。
 現在のブームが来る前、アイドルが下火だった頃は、端的にいうと“ダンス”が主流になり“振り”がなくなっていた。1996年にデビューしたSPEEDが決定づけた流れ。フリフリ衣装で女の子のかわいらしさを表現するのでなく、アーティスティックに高度なパフォーマンスを見せる。それはそれで良いのだが。
 逆に言えば、“ダンス”でない“振り”こそ、アイドルをアイドルたらしめるもの。そして、アイドルらしい振りを最も体現できるのが、実は2人組なのだ。背中合わせになったり、手のひらを合わせたり、並んで腕を振りながらステップを踏んだり。あのシンメトリー感はソロでも大人数グループでも表現できない。
 「あまちゃん」(NHK)で潮騒のメモリーズが80年代アイドルの象徴的にそんな振りをやっていたが、現実に目を移せば近年のアイドルブームのなかでもメジャーデビューした2人組といえば、思い浮かぶのはバニラビーンズぐらい。そのバニビもお姉さん路線のスタイリッシュ系でアイドルの本流ではない。AKB48の派生ユニットでも2人組はなかった。秋元康先生の奥さんは元うしろゆびさされ組なのになぁ。
 実際のところ、正統派2人組アイドルの系譜を真っ当に受け継いだユニットがいるにはいる。声優の小倉唯と石原夏織によるゆいかおりだ。
 小倉唯は初音ミクのゲームでダンスのモーションアクターをやっていたりと2人とも踊るスキルが高いうえ、ステップ、手つなぎ、背中合わせなどオーソドックスなアイドルのフォーマットに則った“振り”をしている。何より2人のシンクロ具合がすごい。生のステージで指先の動きまで、ズレのないタイミングでキッチリ合っていて。
 2人は「振りを合わせるのに苦労したことはありません。最初から自然に合っていました」という。相性なのか。そして2人は背格好が似ていて“双子感”もある。2人組アイドルにはうしろゆびさされ組のような凸凹コンビもいるが、正統の系譜はWinkや辻希美+加護亜依のWのような双子系。元祖のザ・ピーナッツを始め、リリーズ、FLIP-FLAPなどリアル双子もいた。その点でも、ゆいかおりは理想に適っていたが……。
 2人はもともとアップフロント系の事務所にいて自主的にコンビを組み、アイドル誌やアイドルイベントにも出ていた。だが、2人とも声優業が軌道に乗って次々とアニメでヒロイン級を演じ、レコード会社の方針からアイドルとは一線を画すように。
 立ち位置をはっきりさせたのは正解だったし、ステージを観る分にはアイドルも声優も関係ない。とはいえ、やはりアイドルと声優は別もの。ゆいかおりという逸材も2人組アイドルの継承者ではなくなった。
 そんなシーンに、札幌から現れた2人組がWHY@DOLL(ホワイドール)だった。彼女たちも最初から2人でやっていたわけではない。もともとは大人数の地方アイドルグループから派生した4人組で、しかも当初はバンドスタイル。以後あれこれあって青木千春と浦谷はるなの2人組となり、2014年9月にメジャーデビューしている。
 個人的には、ある雑誌の企画絡みで地方アイドルを調べていたときにヴィジュアルが印象に残り、TIFで初めて生のステージを観て、2人がクルクル回って立ち位置を変えたりするパフォーマンスに「これだ!」と思った。そして楽曲を聴けば都会的でシャレたサウンドにかわいい歌声が乗り、本格的に惹かれた。
 2人組という部分での見せ方はまだ発展途上だが、2月発売の1stフルアルバムのタイトルが「Gemini」となったように双子感を持つのが強い。昨年末、10組が参加した「アイドルお宝くじ」(テレビ朝日系)のクリスマス特別編カヴァー大会では「Choo Choo TRAIN」を歌い、アップアップガールズ(仮)、チャオベッラチンクエッティ、まなみのりさらを抑えて1位となった。このときも2人組は彼女たちだけで、バリバリのダンスチューンに振りがストレートに目立ち、初見の観客にもインパクトを残したのだろう。パッと揃えば、かわいさもカッコ良さも際立つのが2人組アイドルだ。
 アイドルは基本その時代ごとの売れ線狙いで、ロックやジャズのような継承性は薄い。それでも脈々と受け継がれてきた2人組の伝統。そのバトンをWHY@DOLLに託しても良いと思う。って、誰が何を託すわけでもないのだけれど、彼女たちはそれだけ重要な存在なのだ。

ライター・旅人 斉藤貴志