中年がアイドルオタクでなぜ悪い!〜場外乱闘編〜

 
 
 おかげさまで2月29日に発売された『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス刊)が大きな反響を呼んでいて、ラジオや雑誌でたくさんの取材を受けた。タイトルも、表紙のイラストもかなりインパクトがあったようで、あるライターさんからは「こんな本を出しちゃって、イメージ的に大丈夫?」と心配されたほど。
 本を読んでいただければわかるのだが、僕は表紙のイラストのようにハッピを着たりはしないし、ヲタ芸を発動させることもない。内容的にも「なぜ悪い!」と世間に噛みつくようなものではなく「世間から冷たい目で見られている現実を受け止めつつ、いかに楽しむべきか?」ということを、中年らしく、落ち着いて考えていくものになっている。
 だから、この表紙が出来てきたとき、僕は「せめてイラストだけは替えてくれないか」と懇願した。間違いなく誤解されるし、かなり恥ずかしい。
 だが、編集者は「小島さんがこんなスタイルでアイドルを見ているわけではない、ということは本を読んでもらえればわかってもらえる。まずは本を読んでもらえなかったら意味がないんですから、ここはインパクトを優先しましょう!」。イラストを担当してくださった師岡とおる先生からも、非常に熱のこもった作品が届けられてきて、僕はその「熱」に完全に折れた。著者として、こんなにも本作りに携わってくれる人たちが本気で熱くなってくれることは「至福」の一語に尽きる。
 そして、この方向性で正しかったんだな、ということは、発売後の反響でわかった。
 もし、もっとマイルドなイラストやタイトルに変更していたら、ここまで幅広い層の人たちに興味を持ってはもらえなかっただろう。
 3月5日、文化放送の『土曜の午後はヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX』という生番組にゲストとして呼んでいただいた。
 パーソナリティーの宮崎宣子さんは、元・日本テレビアナウンサー。明らかに「中年がアイドルオタク」であることに違和感を覚えている。ラジオブースという逃げ場のない空間で、冷たい視線がズバズバ突き刺さる。
 もうひとりのパーソナリティー、髭男爵の山田ルイ53世は知る人ぞ知るモノノフ。以前、モノノフ芸人としてインタビューをさせてもらったことがあるのだが、あまりにも有安杏果が好きすぎて、娘さんに「ももか」という名前をつけてしまった、という一本、筋の通った中年アイドルオタクである。
 本来ならば、2人のパーソナリティーがタッグを組んで、僕を質問責めにするところなのだろうが、この日ばかりは僕が男爵と「中年アイドルオタク同盟」を組んで、宮崎宣子の誤解と偏見をひとつずつ取り除いていく、という土曜の午後とは思えない、異様な展開に。まさにこの本の「音声版」を作ったら、こういう感じになるよなぁ~、という面白い内容になった。
 リスナーの年齢層が高い、ということで3rdアルバム『AMARANTHUS』から、さだまさしが提供してくれた楽曲『仏桑花』をかけてもらい、文化放送をあとにすると、そのまま渋谷へ直行。この日は夕方からHMV BOOKS&TOKYOにて出版記念イベントが開催されることになっていた。ももいろクローバーZプロデューサー・川上アキラ、そしてQuick Japan前編集長の藤井直樹の両氏をお迎えしての3WAYトークバトルだ。
 会場スペースの都合上、観客は90人限定。まぁ、おっさん3人によるトークショーなのだから、それでちょうどいいといえばそれまでだが、そこにももいろクローバーZの百田夏菜子がサプライズゲストとして突然、乱入。最後列のお客さんでも至近距離で夏菜子の笑顔が拝めるという「神現場」に場内は騒然となった。
 このイベントの開催が決まったのは2月上旬のこと。
 その時点では内容はまったく決まっていなかったのだが、2月12日に『川上アキラのオールナイトニッポンR』の公開収録のときに告知のチラシを配らせていただくことになり、苦肉の策で『小島和宏vsX、決定!』という煽り文句を入れさせてもらった。
 プロレスでよくある宣伝の仕方、である。プロレスの場合、本当に超大物でギリギリまで名前を伏せておきたい場合、そして、本当にブッキングが間に合っていなくて、対戦相手の名前を公表できない場合に「X」という表記が使われるのだが、今回は明らかに後者のケースだった。
 そのチラシを川上アキラに渡して、僕は直接、交渉することにした。
「Xがマジで決まっていないんですよ。もし、スケジュールが空いているようでしたら、川上さん、Xになってもらっていいですか?」
 ダメモトの交渉だったが、3月5日はドームツアーの公演が入っていない。おそらく集まってくれるのは熱心なモノノフが中心になるだろうから、ドームツアーの「中間報告会」的なイベントにしたいな、と思っていた。そうなると、ゲストとして最適なのは、やっぱり川上アキラということになる。
「あぁ、5日、空いてますね。僕なんかでよろしければ、喜んで出ますよ!」
 あっさりと5秒で即答だった。さらに5秒後、とんでもない返事が飛んでくる。
「せっかくなんで、誰かメンバーを連れていきますよ。うん、百田だな。百田夏菜子を連れていきますよ!」
 これにはさすがに絶句した。
 90人しか集まらないイベントに百田夏菜子がやってくる。
 こんな贅沢な話はないし、著者してはありがたい限りではあるけれど、さすがにこれは申し訳ない。ドームツアーの狭間の貴重な時間に、ハッキリ言ってしまえば、本人とはほとんど無関係な書籍のイベントに登場していただくのは、あまりにも気が引ける。
「いやぁ、ありがたいお話ですけど……」 
 丁重に辞退しようと思ったところで「ハッ!」となった。
 札幌ドームと京セラドームの狭間に、わざわざ時間を割いていただくのは申し訳ない、と僕は思っていたけれども、そのタイミングだからこそ、あえて、百田夏菜子をモノノフの前に立たせたい、という狙いがあるのではないか?
 だとしたら、ここで断ってしまうのは、あまりにも無粋である。
 こうして百田夏菜子がシークレットゲストとして登場することは早い段階で決まったのだが、ひとつだけ条件が出された。
 それは「本当のシークレットゲストにしてほしい」ということ。事前に告知しないのはもちろんのこと、どこで情報が漏れるかわからないので、誰にも話さないでほしい、と。
 本当にありえないことなのだが、HMVさんに「実は夏菜子ちゃんも来ます」と伝えたのはイベント前日の夕方のこと。安全なイベント運営を考えたら、さすがに当日まで黙っているわけにはいかなかったが、それでも遅すぎる通告。その時点まで、このことは僕とワニブックスの担当編集の2人しか知らないトップシークレットだったのだ。
 この本にはまったくタッチしていない藤井前編集長もイベント出演を快諾していただき(編集長にもギリギリまで夏菜子登壇は伝えていない)、無事にこのイベントは幕を開けることができた。
 店内の混乱を避けるため、川上アキラと百田夏菜子は駐車場からダイレクトにステージに登場してもらうことになったので、事前の打ち合わせはなにもできない。ノー台本、ノープランでのトークショー。ただ、やっぱり百田夏菜子は観客にドームツアーの感想を聴きたがっていた。90人の観客のうち、86人がドームツアーに足を運んでいる、という特異な状況だったので、それはもう感想を聴きまくることができる。
 きっと、川上アキラが百田夏菜子を連れてきたのは、こういう場を設けたかったからなのだろう。驚かされたのは、てっきりフラッと私服で乱入してくるのかと思っていたら、ちゃんと『AMARANTHUS』の衣装で登場してくれたこと。やっぱり、このイベントは規模はものすごく小さいけれど、ドームツアーと地続きになっているのだ。
だからもう、本の宣伝なんかはどうでもよくなって、自由に夏菜子がしゃべりたいこと、聴きたいことを吐き出したり、吸収できたりする「場」にしてしまった。ノー台本、ノープランだからできることでもあり、わざわざ集まってくれたお客さんに対する最大の誠意でもある(本当におっさん3人のトークショーのためだけに取材にやってきてくれたナタリーさんに対する誠意でもあるので、イベントの詳細はナタリーを参照のこと)。
 予定時間を35分もオーバーして終了したトークイベントで、百田夏菜子はなにを感じとってくれたのだろうか? それが京セラドームのステージに少しでもプラスに作用してくれれば幸いだ。
 
 

 
 

小島和宏(こじま・かずひろ)

生年月日:1968年10月4日
出身地:茨城県
血液型:B型
 
1981年、歌番組で観た伊藤つかさの「少女人形」がきっかけでアイドルにハマる。大学卒業後、週刊プロレスの記者を経て、フリーランスへ転向。2009年頃からアイドル関連の記事を執筆し、アイドル熱が再発。現在、ももいろクローバーZの公式ライターであり、AKB48・HKT48に関する著作や取材記事も多数。「BUBKA」にて「Negicco〜Road to Budokan〜」を連載中。アイドルオタクの恍惚と苦悩を綴った新刊「中年がアイドルオタクでなぜ悪い!」(ワニブックス)が発売中。
 
 

中年がアイドルオタクでなぜ悪い! 小島和宏