アイドル楽曲派アナトミア 第1回 WHY@DOLL

アイドルシーンが多様化するなか、ヴィジュアルで推すだけでなく音楽性を重視する“楽曲派”が台頭してきた。そうした音楽的クオリティの高いアイドルを解剖する。第1回はオーガニック・サウンドが高い評価を受ける2人組、WHY@DOLLをクローズアップ。
 

2人組が紆余曲折を経て辿り着いた
オシャレなオーガニック・サウンド

 オーガニックガールズユニット。札幌出身の2人組アイドルWHY@DOLL(ホワイドール)が掲げるキャッチフレーズだ。2014年9月のメジャーデビューに当たり、このコンセプトが打ち出された際、メンバー自身は「はて?」(浦谷はるな)、「そんな音楽あるの?」(青木千春)と思ったという。
 一般にオーガニック・サウンドとは、生楽器を中心にしてデジタル的な加工を排した音楽を指す。WHY@DOLLの場合、自然体で飾らない2人のキャラクターも含めたイメージ。その楽曲は70~80年代ディスコやブラスの効いたファンク、AOR、90年代の渋谷系など様々なエッセンスを取り入れている。2016年2月発売の1stアルバム「Gemini」はドライブミュージックとしてかけても違和感ない。
「『WHY@DOLLがステージに出てくると、品のある雰囲気になる』と言われたことがあって、すごくうれしかったです」(はるな)
 ただ、彼女たちがオーガニック・サウンドに辿り着くまでは紆余曲折があった。もともとは北海道の地方アイドルグループの派生ユニットとして、2011年に結成。当初はバンドスタイルで千春はギター、はるなはベースを担当。その後は楽器を置いて3人組となり、いかにもアイドルな曲を歌っていた。
 千春とはるなの2人組となって2013年11月に上京すると、今度はコンセプトが“武者修行アイドル”に。メジャーデビューを目指し、「ライブ総動員数1万人」といったハードルを自らに課して活動。並行してレコード会社ではメジャーデビューに備えて方針が練られていたが、“第2のWink”といった案も俎上に上がった。
 しかし、すでに飽和状態に見えたアイドル界で差別化を図る意味からも、最終的に“オーガニック”がキーワードとなり、ディスコチューンのメジャー1stシングル「Magic Motion No.5」を発売。それまでWHY@DOLLが歌ってきたアイドルソングとまったく違うテイストで、モーニング娘。など正統派アイドルを聴いて育った千春、テクノや和製R&Bにハマってきたはるな共に馴染みのない曲調だった。
 「いきなりオシャレな曲がキター!」(千春)と気に入りつつ、「でも、私たちに歌えるのかな?」(はるな)との不安も過ったとのこと。
「リズムがすごく難しかったんです」(千春)
「アイドルは平坦に歌っても、それが良かったりもするけど、私たちの曲だとノペッと聞こえてしまう。どこにアクセントを置けばいいのか? 歌いながら学びました」(はるな)
 2ndシングル「曖昧MOON」、3rd「clover」とピアノやブラスをフィーチャーしてファンキーなグルーヴ感がさらに高まる。愛らしい千春、落ち着いたはるなとコントラスの付いたツインヴォーカルも際立ってきた。音源化前の曲も含め新機軸の持ち歌が一気に増え、WHY@DOLLのステージはすっかり変容した。懸念された従来のファン離れは少なく、むしろ年齢高めのファンが増えたが、対バンライブでヲタ芸を打って盛り上がるようなアイドルたちのなかに入り、逆風にさらされたことも。
「私たちが歌うと、みんなキョトンとして、会場から出て行っちゃったり」(はるな)
「アウェイで浮いているのがわかるから、ゆううつな日もありました」(千春)
「正直『出たくない』くらいな。でも最近は逆に、アウェイだと燃えます。『私たちの実力と楽曲の良さを見せつけてやる!』って。こういう曲を聴いたことがない人に伝えられるかが、テストみたいになっています」(はるな)
 

レトロなディスコやファンクを核に
かわいらしい声でアイドル性も融合

 毎回のライブ後に、物販で「初めて聴いたけど良かった」と声を掛けてくる新規ファンを少しずつ増やしながら、2016年7月に代官山UNITで行われたワンマンで、WHY@DOLLはタワーレコードのアイドル専門レーベルT-Palette Recordsへの移籍を発表した。
「うちはカラーとして曲の良さを優先しているのでピッタリ、という話になりました」。A&Rの雪田容史氏はそう語る。「WHY@DOLLの路線をガラッと変える気はありませんでした。核はやはりディスコサウンド。ただ、同じことをずっと続けていく気もなくて」。
 移籍第1弾シングル「菫アイオライト」を11月に発売。楽曲は当初コンペを行ったが、ディスコとして発注したところ、「大人っぽさのないアイドルらしすぎる曲が集まって、イメージに合うものがなかった」と、同じT-Palette所属のNegiccoに関わった吉田哲人氏に作曲を依頼。ディスコという以外に「BPM速めでシングル表題曲っぽく」「古めの曲をリスペクトする感じで」「でも最新の音楽エッセンスも入れる」とオーダーした。
 結果、「菫アイオライト」はギターのカッティングのイントロから始まり、ブラスも響く70年代フィリーサウンド風のダンスナンバーに。「曖昧MOON」も手掛けたつのだゆみこ氏による詞もどこか昭和感がある。一方、新たな試みとしてラップを取り入れ、ハモリも凝りに凝っている。ハモリのレコーディングだけで4時間かけたという。
 雪田氏はWHY@DOLLに初めて携わり、そのアドバンテージを「2人の声がちょうど高い要素と低い要素に分かれていて、作る側はやりやすい。同じような声だと幅が狭まってしまうので」と指摘する。しかし2人は、声については「コンプレックスがある」とも。
「2人とも子どもっぽい声なので。どうしたらオシャレ寄りに歌えるかは意識します」(はるな)
「特に私の声が幼くて、大人っぽい曲だと追い付いていけなくて。でも、そこが良いと言ってくれる人もいるんです」(千春)
 確かに、楽曲はオシャレでカッコイイといっても、そこはアイドル。かわいらしい歌声がアイデンティティにもなっている。
「アイドルの枠と離れすぎると変わっちゃうと思います。身近な存在でいて、かつオシャレで誰でも入りやすい曲を歌っていけたら」(千春)
 WHY@DOLLの今後について、雪田氏は「しっかり歌えて踊れるので、ちゃんと曲をハメたら良いものができる。基本の路線ははみ出さず、今回のラップのような挑戦もして、レンジを広げていきたい」という。
 オーガニックガールズユニットの進化は、アイドルの音楽がどこまでファッショナブルに成立するかの試みとなりそうだ。
 

WHY@DOLL
(写真右)青木千春(おあき・ちはる)=1993年1月21日生まれ。
(写真左)浦谷はるな(うらたに・はるな)=1995年4月1日生まれ。
共に北海道出身。2016年4月より定期公演「WHY@DOLLレギュラー公演~はる色に染めて~」を渋谷Gladにて隔週火曜に開催中。

詳細は公式HPへ
 
 

TEXT=斉藤貴志