ROAD to 笠寺〜“おわり”と“はじまり”

 2012年11月11日、イオンモール新瑞橋でチームしゃちほこが目標に掲げた「ROAD to 笠寺」。同年4月に名古屋城で路上デビューを果たしたばかりの少女たちにとって、当時はあまりにも遠すぎる舞台だと誰もが思っていたはずだ。そこから4年以上の時を経て、成長した彼女たちがやっとの思いで辿り着いたこの地、日本ガイシホール。
 去る3月21日(火)、そんなチームしゃちほこの5年間の思いが詰まったライブ「TEAM SYACHIHOKO THE LIVE ROAD to 笠寺 おわりとはじまり at 日本ガイシホール」を目に焼き付けるべく、「おわりとはじまり」という意味深な表題に込められた真意を読み解くべく、会場を超満員にするほどの人が笠寺の地に足を運んだ。

 緊張が会場を包むなか、お馴染みの「Song 2」がSEで流れ、いよいよチームしゃちほこの歴史に残るライブが始まる! …と思いきや、ステージの幕はまだ開かない。すると突然、暗がりの会場に幻想的な音楽が流れ始め、ダンサーがローラースケートを履いて登場し、ステージ前方から花道までを優雅に滑り出した。耳に入ってくる音楽といい、目の前に広がる光景といい、その様子はまるでフィギュアスケートを見ているかのようで、華麗さに会場中が見とれてしまっていた。「今までのチームしゃちほこのライブとは何かが違う」、そう思わせるには充分すぎる演出だった。

 そしてついに幕が開き、木の妖精のような衣装に身を包んだ5人が最初に披露したのは「プロフェッショナル思春期」。壮大さと神々しさを合わせ持ち、先の幻想的なオープニングアクトに続く1曲目はまさにこれしかないという選曲だった。1コーラス歌ったところで衣装を早着替えし、木から咲いた花のつぼみを模した衣装に。白地に“6色”の花が描かれ、名古屋城の天守閣に輝く金のしゃちほこを彷彿とさせる金色のリボンを頭につけるというこだわりようだ。そのまま、路上デビュー時に与えられたオリジナル曲2つのうちの1曲である「恋人はスナイパー」を披露。5年前とまったく変わることのない元気いっぱいのステージングと、5年前とは見違えるほど成長したパフォーマンス。その2つが一度に視覚情報として脳内に入ってきて、5年前を思い出しながら早くも感傷に浸った人は少なくないはず。続いて披露した「ちぐはぐ・ランナーズ・ハイ」では、スタンドマイクを使ったパフォーマンスが様になっていて、こんな小技も演出に組み込むことができるようになった彼女たちの成長をさらに感じさせた。
 間髪入れず「J.A.N.A.I.C.A」に入ったところで、全国各地から集まったスターダスト地方営業所の後輩たちをバックダンサーに従え、お祭り騒ぎ感満載のステージに。少しずつフォーメーションを変えながらも全員がほとんどユニゾン(同じ振りを同時に行う動き)で踊る様は壮観だった。曲中で秋本帆華が思いきり叫んだ「今から夢叶えちゃうけど、ええじゃないかー!」に、会場のボルテージが一段と上がる。続く「ピザです!」「ごぶれい!しゃちほこでらックス」では、バックダンサーの後輩たちをそのままステージに残して、チームしゃちほこのメンバーはトロッコに乗り込みスタンド席上段を移動しながら歌唱。彼女たちが毎回のライブで特にこだわる「客席との近さ」は、これだけ広い会場においてもおざなりになることはなく、しっかりと演出に組み込まれていた。
 
 

 
 

 
 

 
 
「ごぶれい!~」が終わってメンバーの自己紹介タイムが始まり、開始早々パフォーマンスも演出もフルスロットルだった会場につかの間の休息が与えられる。最後にお決まりの「みそカツー!」「手羽先ー!」「エビフライー!」のくだりがあり、MCに入るかと思いきや、最後の「チームしゃちほこです! はぁー!」と同時に後ろで流れていた音楽がピタリと止んだ。そして、数秒の無音の後に「Chérie!」のイントロが流れ出したのだ。こういった「いつもとは違う!」と思わせる演出が随所で散りばめられていたのが、今回のライブの特徴のひとつでもある。
「Chérie!」で会場の雰囲気をかわいらしいピンク色に染め、続いて新曲である「ロードムービー」を披露。なめらかなメロディーラインにストリングスの音色が混ざり、その場のかわいい雰囲気に沿いながらもどこかエモーショナルさを感じさせる楽曲だ。「君にとっての一番でありたい」という歌詞が特に印象的であった。そして、今度はそのエモーショナルさに沿う流れで「colors」を披露。何度聞いても、イントロのギターサウンドが聞こえてくる瞬間は鳥肌モノである。間奏後に咲良菜緒が歌う落ちサビが、今まででいちばん広い日本ガイシホール中にこだまし響き渡り、エモーショナルさに拍車をかけた。
 
 

 
 

 
 
 一度メンバーが舞台袖へはけると、会場内にはメンバー1人ずつのラジオコーナーを模した音声が流れ、しばらくまったりとした空気に包まれる。ラジオコーナーの流れのまま、花道の先に用意されたセンターステージに現れたのは大黒柚姫と坂本遥奈のユニット・RADIO CBC。まるでラジオの収録ブースにいるかのように、同じセンターステージには机とイスとマイクが用意され、2人が向き合ってイスに座った状態からユニット曲「レディオにおねがい」を歌い始めた。ラジオブースをうまく利用して、双子ダンスを観ているかのようなかわいらしいダンスを披露。今日のために振りを一変させたとのこと。2人の仲の良さがいつも以上に垣間見えるステージングとなった。そのまま履けていた3人もステージへ戻ってきて、久しぶりの「でらディスコ」へ。これまたラジオナンバーのような楽曲で、「レディオにおねがい」からの絶妙な繋ぎが光る。それこそ4〜5年前は締めの定番曲としてよく使われたこの楽曲を、構成の一環として使えるようにまで演出の幅が広がったことをしみじみと感じた。
 そこからは「首都移転計画」「いいくらし」といったシングル曲が続く。「首都移転計画」ではイントロ中の秋本のセリフ「ライブうますぎるもん」の笑顔の奥に秘められた自信を感じ、「いいくらし」ではラップパートで突如サングラスをかけ出した咲良と坂本のノリノリ具合に遊び心を感じた。
「いいくらし」のラストにステージ上でメンバーが寝転ぶ演出が入り、そこから起き上がったのは秋本と咲良の2人。まるで陽の光を浴びながら朝を迎えたかのようなゆったりとしたイントロから、ユニット曲「秘密のセレナーデ」を歌唱。途中で3人も起き上がり、秋本・咲良のバックパフォーマーとして、用意された大きめの額縁を使ったパフォーマンスを披露。これもまた初めて見る演出で、秋本・咲良のキレイなハーモニーに抜群にマッチしたパフォーマンスを見せてくれた。
 
 

 
 

 
 

 
 
 その後、初めてちゃんとしたMCが入る。大黒がライブ前、地方営業所の後輩たちに「私の背中を見てがんばってください」と声をかけたという話でひと笑い起こし、5人はまたステージ袖へとはけて行った。
 そしてスクリーンには「愛の地球祭」の煽り映像が流れ始め、この日いちばんと言っていいほど気合の入ったおちゃらけ映像が会場中に笑いの渦を巻き起こす。「きっとこの後は、今までとは違った『愛の地球祭』が観られるのでは?」という期待を抱かせ、イントロとともにステージには、チームしゃちほこのメンバーと地方営業所の後輩たち全員がムカデ競争のようにひと繋ぎになった衣装で登場(笑)。想像のななめ上をいく演出に、会場からはどよめきと笑いが混ざった声が聞こえてきた。一体全長何mあるのかというほどの長い衣装を身に纏った一行は、1曲丸々使ってゆっくりと歩を進めながら花道を渡り、センターステージにたどり着いた。曲の最後にムカデ衣装を脱ぎ捨て、そのまま「乙女受験戦争」へ。チームしゃちほこのメンバー1人ずつが、それぞれ地方営業所の後輩3〜4人ずつを引き連れ、ステージ上を縦横無尽に走りまわる。この曲中は本当に自由そのもので、大黒軍団は大黒を先頭に花道をほふく前進したり、伊藤軍団は伊藤千由李がする変なポーズを全力でマネしたり、とにかく会場のどこを見渡しても楽しめる演出が施された。続く「そこそこプレミアム」では、バックダンサーがピンクの傘を使ったダンスで、歌唱するチームしゃちほこを華やげる。本当に次から次へと、今までのチームしゃちほこのライブでは見たことがない演出が繰り出され続け、常に新鮮な気持ちでステージを見ていられるライブだ。
 
 

 
 

 
 

 
 
 後半戦に差し掛かり、ここからはチームしゃちほこ十八番のアゲ曲連打。「It’s New 世界」で会場中が拳を突き上げて咆哮したと思えば、「ザ・スターダストボウリング」で会場中が全力のコール&レスポンスで包まれ、「抱きしめてアンセム」で会場中が上下左右を目いっぱい使った振りコピで暴れる。今まで温存していたのかと思うほどの莫大なエネルギーを客席からもステージからも感じた。
 続けて披露した「なくしもの」はメンバーがアカペラで歌い始め、観客とともに、バラードながらもいい意味で泥臭くて力強い歌声を響かせる。そして炎が吹き上がるステージで「ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL」を熱唱した。
 
 

 
 

 
 

 
 
 その後メンバーが舞台袖へはけ、それまでの熱量いっぱいのステージから一変。伊藤がローラースケートで登場し、ソロ曲「泣いてなんかいないよ」のミドルテンポな音とエモーショナルさを感じさせるメロディーラインに乗せてキレイな歌声を会場中に響かせた。そして会場は一面の黄色いペンライトに包まれる。最後のサビを歌唱し終え、花道を勢いよく滑りステージに戻ったところでバランスを崩して転びかけてしまったところも含め、実に彼女らしいステージングであった。
 伊藤がステージからはけ、暗転。ステージには幕が張られ、SE直後の幻想的な音楽が再び会場中に流れ始める。そして、同じようにダンサーがローラースケートを履いて花道とステージを滑り抜ける。SE直後と同じこの演出が、今度は「ROAD to 笠寺」の終わりを告げているように感じる。さらにまた同じようにステージの幕が開き、いつのまにか最初の木の妖精に扮した衣装に着替えたチームしゃちほこのメンバーが再び「プロフェッショナル思春期」を歌い出した。まるで、ここから「ROAD to 笠寺」ではないまた新たな“何か”が始まることを予感させるかのように。
 その予感は的中し、本編最後を飾ったのは「START」。本編の“おわり”に“はじまり”を意味する楽曲を披露したのだ。また、木の妖精に扮した衣装を脱ぎ捨て、デビュー当時のしゃちのぼり衣装のゴールドバージョンに早着替え。チームしゃちほこの“はじまり”の衣装をバージョンアップさせることで、新たなチームしゃちほこの“はじまり”を暗に示した。とにかく明るく前向きで、アップテンポかつエモーショナルな音が、これからも前に突き進み続けるであろう彼女たちを表している。これ以上ないくらいの完璧な構成で、本編を締めくくった。
 
 

 
 

 
 
 しばらくすると「ROAD to 笠寺」の5年間を振り返る映像が流れ始め、アンコールで登場した5人はそれぞれの思いをMCで語り、最後の曲である「マジ感謝」を披露。チームしゃちほこからの感謝と愛で会場中が包まれた。最後にスタッフを交えた記念写真を撮影したところで、店長(チームしゃちほこマネージャー長谷川氏)からメンバーに「めったに言わないんだけど、ハル、なお、ほのか、ちゆ、ゆずき。そしてここには来れなかったけど、ゆず! お前たちよくやったな!」と言葉がかけられ、普段はめったに涙を見せることのない秋本ですらも目に大量の涙を浮かべた。店長は「はじめはガイシホールも鼻で笑われました。だから僕は今日また鼻で笑われることをしたいと思います」と続け、ステージ後方に「新章始動!!! いざ、ROAD to ナゴヤドーム前矢田!!!」の文字を映し出した。そう、チームしゃちほこの新たな道の“はじまり”である。そして店長に振られた秋本が「ここにいるみなさんは絶対に来てくれるよね? 来てくれなきゃ、矢田(やだ)ー!!」と叫び、念願の日本ガイシホールでのライブに幕を閉じた。
 
 

 
 
 本編最後のMCで秋本が言った言葉がある。

「夢の続きは、新しい夢のはじまり」

「ROAD to 笠寺」という夢が“おわり”、それに続いて「ROAD to ナゴヤドーム前矢田」という新しい夢が“はじまり”を迎えた。“おわり”と“はじまり”の2つの意味で、チームしゃちほこの歴史に深々と刻まれた日本ガイシホールでのライブ。これから彼女たちが見せてくれる新しい夢は、きっと希望に満ちた光り輝く夢の“はじまり”に違いない。
 


 

【セットリスト】

M1. プロフェッショナル思春期
M2. 恋人はスナイパー
M3. ちぐはぐ・ランナーズ・ハイ
M4. J.A.N.A.I.C.A
M5. ピザです!
M6. ごぶれい!しゃちほこでらックス
M7. Chérie!
M8. ロードムービー
M9. colors
M10. レディオにおねがい(坂本遥奈・大黒柚姫)
M11. でらディスコ
M12. 首都移転計画
M13. いいくらし
M14. 秘密のセレナーデ(秋本帆華・咲良菜緒)
M15. 愛の地球祭
M16. 乙女受験戦争
M17. そこそこプレミアム
M18. It’s New 世界
M19. ザ・スターダストボウリング
M20. 抱きしめてアンセム
M21. なくしもの
M22. ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL
M23. 泣いてなんかいないよ(伊藤千由李)
M24. プロフェッショナル思春期
M25. START
EN1. マジ感謝
 


 
 
 

ライター・小山内凜