TIF2017に見たアイドルシーンの過渡期

 
 

TIFの申し子Dorothy Little Happy
7年連続出演も形は大きく変わって

 
 
 当サイトの読者には説明不要かと思うが、“世界最大のアイドルフェス”を謳い今年が8回目の「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」。8月4日から3日間にわたり開催された。そのレポートのテーマとして当初考えていたのは“楽曲派アイドル”を追うことだった。
 メインステージでも30分、他は20分とか15分のライブとなると“沸かせたもの勝ち”なところがあり、3~4曲をすべてアゲ曲にしがち。そんななかで、良質な楽曲を売りにするアイドルたちはどんなステージを展開していくのか……というところを書こうと思ったのだ。最初は。
 2日目のHEAT GARAGE(Zepp DiverCity(TOKYO))。callme、フィロソフィーのダンス、そしてsora tob sakanaを観た。callmeは1曲目はノリの良い「step by step」で来たが、持ち前のクールなピアノチューンの新曲「Way I am」も臆せず披露。タテノリの盛り上がりと違う、ジャジーなグルーヴ感と目まぐるしいダンスで魅了……などとノートにメモした。
 そしてDiverCityを出ると、隣りのオープンスペースFESTIVAL STAGE(ダイバーシティ東京プラザ2F)から、聴き覚えのありすぎる歌声と曲が聞こえてきた。“カッコつけてるつもり? 勇気がないの?”。Dorothy Little Happyの髙橋麻里による「nerve」だった。
 ドロシーはTIFと縁が深い。地元・仙台を拠点に活動していた2011年、メジャーデビュー直前に東日本大震災が起こり、記念イベントがすべて中止・延期。東北各地のチャリティイベントに出向いていたなか、夏に2回目のTIFに初参加。レベルの高いパフォーマンスが多くのアイドルファンの目を引き、「デモサヨナラ」で“好きよ”“オレも!”のコール&レスポンスが怒涛のように起きた。自分もその場にいて鳥肌が立ったほどだ。ドロシーは仙台の地方アイドルから、この年のTIFで“発掘”されたと言われている。
 FESTIVAL STAGEで麻里は「TIFは7年連続の出演です」と話した。とはいえ、初出演では5人組だったのが、2015年に現callmeの3人が離れ、髙橋麻里と白戸佳奈の2人組に。さらに、佳奈が今年7月で芸能界を引退。今回は麻里の1人ユニットとなっての参加だった。もともとドロシーのメインヴォーカルで、1人で歌った「デモサヨナラ」もやはり胸を打ったが。
 そんな麻里=ドロシーのステージが終わったあと、仙台時代の後輩筋に当たるParty Rockets GTとのコラボで、レア曲「臨戦態勢が止まらない」を一緒に歌った。考えたら、パティロケのほうもいろいろあったグループだ。
 ロック系アイドルParty Rocketsとして、2012年に7人で結成。メジャーデビューも果たしながら、メンバーが1人、また1人と卒業。それでも4人組になってCDチャートでも健闘し認知を高めてきたところで、2013年の年末にリーダーでメインヴォーカルという支柱だった渡邉幸愛が卒業(翌年にSUPER☆GiRLSに加入)。3人で活動を続けていたら、今度は2015年に藤田あかりが卒業(GALETTeに加入→現Stella☆Beats)。残った2人に新メンバーを加え、“GT”を付けて改名し、現在は5人組となっている。
 
 

アイドル戦国時代から8年を経て
より重層な競争と新たな試行錯誤も

 
 
 今年のTIFを観ていると、他にも変遷を感じたり転換を目の当たりにすることが多かった。LinQは最終日にメンバー20人が九州から集結したが、「解体・再開発プロジェクト」により、その2週間後には現体制での活動を終了し、11人の新生LinQとして再スタートすることが決まっていた。ひめキュンフルーツ缶は現メンバー4人が全員、10月末で卒業。オーディションで決定するメンバーによる完全な新編成になるという。
 2010年の第1回では結成直後だったSUPER☆GiRLSは、今やキャリア組になったが、当時の12人のメンバーのうち、残っているのは5人。風男塾も連続出演を続けつつ、第1回にもいたのは当時加入したばかりの瀬斗光黄のみ。
 同じくアフィリア・サーガ・イーストも、アフィリア・サーガから今年は純情のアフィリアとグループ名を変え、第1回のときのメンバーは誰もいない。6月で卒業したコヒメ(小日向茜)は最終日にグランドフィナーレの裏で行われたトークイベント「スナックうめ子~アタシがアイドルだった頃はね…スペシャル!」に登場。自身はグループを卒業するつもりはなかったが、同じ古株メンバーのユカフィンが卒業を申し出た際、プロデューサーに「同じタイミングで卒業するように」と命じられた……と話していた。
 何より、このフェスのホスト役を務めていたアイドリング!!!は15年に全員卒業となっている。他にも、もうなくなったグループは少なくない。アイドルが8年も経てば、いろいろあって当然ではあるが……。
 TIFが始まった2010年は“アイドル戦国時代”と言われていた。今のアイドル界は何時代なのだろう? AKB48から乃木坂46がトップになり、今は欅坂46の勢いが凄まじいが、ブームはAKB48の最盛期からピークアウトしたと世間的には見られている。その一方、TIFは昨年から、それまでの2日開催から3日開催となり、今年の来場者数は過去最多の8万人越えとなった。実はアイドルファンは増えている。出演アイドルは223組。昨年の301組よりは減ったが、一昨年の154組より依然多い(ちなみに第1回は45組)。中堅アイドルも増えていて多彩になった。トップまで突き抜けるアイドルが少ないことと表裏一体ながら、全国津々浦々にまでアイドルが根付きつつあるようだ。
 もしからしたら、“アイドル”は“お笑い”のようになる過程にあるのかもしれない。お笑いは現在“ブーム”ではないが、テレビをつけるとバラエティ番組では多く芸人たちが普通に活躍している。何度かの一時的なブームを経て、文化として定着した。その基盤となっているのが予備軍の分厚さだ。ライブハウスでのお笑いライブに行くと、テレビでは見なくて無名なのに面白い芸人たちが多くて驚かされる。
 アイドルも、たとえばインディーズデビュー10周年のまなみのりさに聞くと、AKB48が大ブレイクしてから世の中の空気が変わったという。路上ライブをしていても「アイドル?」と見下す視線が多かったのが、足を止めてもらえるようになったり。アイドルが世間一般に受け入れられるようになったのは間違いない。それもあり、アイドルを目指す少女もどんどん増えて人材の層は厚くなった。同時に年齢に関して、昔のような“20歳をだいぶ過ぎてアイドルをやっているのは恥ずかしい”空気は薄れてきた。男性アイドルほどではないにせよ、20歳半ばすぎのアイドルも許容されている。
 といった流れは良いことのようで、個々のアイドルには、より厳しい状況になった面もある。お笑いでも人材が途切れることはなく、テレビを観る分にはいつも楽しい。だが、当事者たちの競争と入れ替わりは激しい。シーンは活況でも、個々の芸人が長く一線で活躍を続けるのは、かえって難しくなっている。そのうちのひと握りが、真のスターになるのだが……。
 今年のTIFでも、Task have Funや26時のマスカレイドなど楽しみな新鋭が見られただけに、キャリアを重ねているアイドルはどう戦っていくか、ますます難しくなるだろう。寿命が延びた分、「アイドルからアーティストに」ではなく「ずっとアイドルでいたい」という向きも出てきている。じゃあ、どうすればいいのか? その試行錯誤のなかで、グループの再編や解散、メンバーの卒業が増えている昨今……という気がする。
 そんな“アイドル界の過渡期”を感じたTIF2017。1人ドロシーとなった髙橋麻里や一時は存続の危機だったParty Rockets GTは、傍から見たらガタガタの状態から何とか踏ん張っている。他の戦国時代をサバイブしたグループにも道は依然として険しいが、来年のTIFではどんな姿を見せてくれるだろうか?
 

 
 

ライター・旅人 斉藤貴志