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女優が光っていたドラマ考察(2020年上半期)

2020年 6月 27日

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 コロナ禍で特別な年となってしまった2020年。気づけば早くも半分が過ぎようとしている。4月からドラマの収録も全面的にストップし、新作は相次ぎ放送延期。一時は旧作の再放送ばかりに。そんな中ではあるが、2020年上半期の連続ドラマから秀作を振り返ってみたい。実質的には1クール+α分。作品としての評価もさることながら、「女優が光っていた」という観点から選んだ。
 
 
 

「敏腕記者役・吉高由里子の30代ならではのかわいさ」

 
「知らなくていいコト」(日本テレビ系)
 
 雑誌記者役で主演した吉高由里子がとにかくかわいかった。
 31歳の彼女に対して、10代の女優やアイドルと同じ意味の「かわいい」ではない。一方、彼女がかわいいのは昔からでもある。それでも、このドラマでは毎回、今までになく「吉高かわいいな……」と感じた。
 演じた真壁ケイトは「週刊イースト」のエース記者。政治家の不正から芸能人のスキャンダルまで、スクープをバンバン取ってくる。その裏で、見知らぬ父親が世間を騒がせた殺人犯かもしれず……。
 ドラマは毎話ごとのスクープを巡る攻防と、ケイトの出生に絡む謎の両軸で展開。ケイトの元カレで妻子持ちのカメラマン・尾高由一郎(柄本佑)との恋愛にも注目が集まった。さらに、政府や警察に忖度する大手新聞社への投げ掛けや、自身が突撃取材される側になったケイトの葛藤も描かれたりと、多岐な要素を盛り込んだ意欲作だった。
 その中で、吉高がかわいかったのは恋愛の場面だけではない。むしろ、病院のトイレに籠って1日中張り込んだり、「取材は断られてからが始まり」と粘り強く切り込む、女性っぽさ無用のバリバリな仕事ぶりが、不思議とかわいく見えた。
 理屈では説明つかないと思っていたが、最終回で尾高が「命削ってでも真実に突き進んでいくケイトが好きなんだ」と言った台詞が腑に落ちた。信念を持って、どんな相手にも臆せずツッコんでいくケイトの姿が、視聴者としても胸に刺さっていた。「かわいい」は、彼女を人として愛おしく思う感情だったかもしれない。
 そして、30代に入った吉高の演技からは角が取れて、敏腕記者の奮闘すら自然体に見えたせいでもある。ハツラツと仕事に打ち込みながら、大人の恋に悩みもする女性を、間近で見ているようでもあって。そりゃ、かわいく思うというものだ。
 
 
 

「真面目な小芝風花が全力でコミカル演技」

 
「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)
 
 美食家の探偵・明智五郎(中村倫也)と、彼が図らずも殺人鬼に変貌させたマリア(小池栄子)の対決を描く物語。明智が買いに来る移動弁当屋の店主・小林苺を小芝風花が演じている。明智に勝手に助手扱いされて、事件に巻き込まれる役どころだ。
 食にまつわる殺人サスペンスだが、苺にはコミカルなシーンも多い。明智との「小林1号」「いち、ご、ですっ!」との定番の掛け合いや、崖で身投げを止めようとしたら自分が落ちそうになり、助けない明智に「この人最低だー!!」と泣き顔で叫んだり、明智が一流デパートの御曹司と知り「超お金持ち!?」と目をむき鼻の穴を広げて驚いたり。クスッとさせる表情が随所に出る。調子っぱずれな歌も大声で歌い、小学校に潜入するため白塗りで用務員ふうの扮装まで見せた。
 当サイトの取材で小芝は自身を「変に真面目で面白くない人間」と語っていて、佇まいも清楚。演じるのも真面目な役が多かった。それが3年前に「マッサージ探偵ジョー」で初めてコメディに挑み、昨年の「トクサツガガガ」の特撮オタク役でも評価を高めた。「美食探偵 明智五郎」でコメディエンヌぶりはさらに極まっている。
 後半は苺自身もマリアの標的にされたりとシリアスな場面が増えたが、今回は振り切った顔芸だけでなく、体も張っているようだ。走っていたら足首がグキッとなって派手に転げ回ったり。「私は全力でコケたりするだけ。自分に対する遠慮がなくて、激しいリアクションでどこかにぶつけちゃうのか、よく傷やアザができています(笑)」と語っていた。
 昨年は「パラレル東京」のアナウンサー役で、大地震に緊急放送を続けた。NHKで実際の新人アナ用の研修を受けて、イントネーションや声の響き方を鍛え上げて撮影に臨み、視聴者が「本職みたい」と称賛。コミカルな役で全力のリアクションを取るのも、小芝にとってはたぶん同じことで、真面目ゆえに徹底しているのだろう。
 コメディエンヌとして光るとは、「魔女の宅急便」の頃の小芝には考えられなかった展開だ。本来の持ち味の清楚で真面目な役とも両立させて、多部未華子のようなスタイルを担っていけば理想的。
 
 
 

「ビジネスドラマでド天然の黒島結菜とガラの悪い松井玲奈が対決」

 
「行列の女神~らーめん才遊記~」(テレビ東京系)
 
 「未来世紀ジパング」の放送日移動を受けて、2018年4月から大人向けビジネスドラマ枠となったテレ東系の月10「ドラマBiz」。江口洋介主演の「ヘッドハンター」、仲村トオル主演の「ラストチャンス 再生請負人」など、渋いキャストで硬派な良作が続いていた。
 3年目に入り、この4月からの「行列の女神」では、いきなり23歳の黒島結菜が鈴木京香とのW主演格で投入された。しかも、演じた汐見ゆとりはラーメン作りの腕は天才的ながら、度を越えた天然で空気をまったく読まない。マンガ原作とはいえ、ビジネスドラマには異色のキャラクターだった。
 黒島はこの役をハイテンションで表情豊かに演じて、実に楽しかった。かつ「おいしいだけじゃラーメン屋は成功しない」とビジネスドラマの基本を抑えた成長も描かれ、サラリーマン層にも好感を持たれたはず。老若男女の誰からも愛されそうな黒島の資質が開花した。その辺を以前こちらのコラムでも書かせてもらっている。

「黒島結菜が放つ国民的ヒロイン感」

 彼女はこの4月クール、2017年に主演した「アシガール」(NHK)も金曜22時~で再放送。プライムタイムに主演級の連ドラが2本流れた。さらに1~5話でヒロインを演じた深夜ドラマ「死役所」(テレビ東京 ほか)も再放送されている。結果的にコロナ禍に恩恵を受ける形となった。
 また、「行列の女神」には、ゆとりのライバルのフードコンサルタント・難波倫子役で、松井玲奈も3回に渡り出演。彼女もこのクール、朝ドラ「エール」(NHK)に深夜ドラマ「浦安鉄筋家族」(テレビ東京 ほか)と3本の連ドラに出演。こちらはいずれも新作だ。
 メガネの倫子は外面は良いが実はガラが悪く、ゆとりにガンを飛ばして「さっさと消え失せろ言うとんねん、このボケ!」と急に関西弁で毒づいたり、頭にアイアンクローをかけたり。対照的な2人の掛け合いは笑わせてくれた。
 一方、「エール」ではヒロインの二階堂ふみの姉役で、おしゃれ好きで清廉と、まるで別の顔を見せている。SKE48のWエースから卒業して5年。着実に女優としての地歩を固めている。
 
 
 

「福原遥が見せた2次元キャラの絶妙な変換」

 
「ゆるキャン△」(テレビ東京 ほか)
 
 女子高生たちのゆるいキャンプを描いた深夜ドラマ。マンガ原作でアニメ化もされたが、メイン5人=福原遥、大原優乃、田辺桃子、箭内夢菜、志田彩良がそれぞれ、クセの強いキャラクターを上手く再現していた。主人公でソロキャンプ派の志摩リン役が福原。かわいいだけでなく、さすがの演技だった。
 2次元キャラをそのまま3次元でやると、なぜか違うキャラのようになることはありがち。マンガのリンはクールで感情を表に出さない。実写でそのまま演じていたら、たぶん怖いか味気なくなっていただろう。そこを福原は、たとえば小さな置き物を買うか買わないかの場面で真剣に迷ったり、ツンデレっぽいかわいげがあった。3次元の役に変換すると、逆に2次元のリンのイメージ通りになるマジック。天真爛漫な役が多かった福原のクールさは新境地でもあった。
 それと、各務原なでしこ役の大原優乃も特筆もの。自転車で富士山を見にきて、公衆トイレの軒先で眠りこけていたら日が沈み、帰れなくなってキャンプ中のリンに助けられた。どこか抜けていながら、無邪気で人なつっこく、常にフワフワ。いかにもマンガ的キャラクターだが、大原はまさに2次元から飛び出てきたかと思うほどストレートに体現していた。
 たとえば寝起きに伸びをして「フワーッ」と口に出してあくびなんて、3次元ではただのブリッコにしか見えなそうなのに、大原がやるとナチュラルでかわいい。天性かもしれないし、グラビアで身に付けた空気感かもしれない。とにかくひとつひとつが微笑ましくて引きつけられた。こうした2.5次元の役には打ってつけかもしれない。
 
 
 

「清らかで儚く。新人・中井友望のインパクト」

 
「やめるときも、すこやかなるときも」(日本テレビ)
 
 最後にもう1本、触れておきたいのが、この深夜ドラマに実質1話だけ出演した中井友望だ。
 ドラマは家具職人の須藤壱晴(藤ヶ谷太輔)と父親に暴力をふるわれている本橋桜子(奈緒)の恋物語で、中井が演じたのは壱晴の初恋の女性・大島真織。暴力をふるい働かない父親と二人暮らしで、アルバイトに明け暮れながら成績優秀。壱晴と共に東京の大学に進学する夢を持ちながら、高3の冬に交通事故で亡くなった。彼女の死を壱晴はずっと引きずっている。
 中井はこれがドラマデビューで、壱晴の高校時代の回想で長い出番があったのが5話。清らかで儚げな真織は、その分、境遇が切なくて涙を誘った。この5話を観て、何としても中井を取材したくなり、急いで事務所にオファーした。

中井友望インタビュー

大阪出身の20歳。真織と通じる儚げな佇まいと、芯の強さを併せ持った印象。中学で不登校となり、高校も大学も中退。常に生き辛さを抱えていた中で、女優の世界に希望を見出したという。映画「COMPLY+-ANCE」で病んだ感じで「嫌われたくない。見捨てられたくない」などと泣いていたのも「演技というより自分のまま」だったとも。最近の若手にいないタイプだが、それだけに独特な演技を見せてくれそう。次回作にも期待したい。
 
 
 

Text/斉藤貴志