女優・真野恵里菜が花開くとき

アイドルとしては時代に阻まれた抜群のポテンシャルが演技で輝く

 ハロー!プロジェクトは正月と夏に所属アイドル総出演のコンサートを行う。中野サンプラザでの終演後は舞台裏で関係者挨拶があり、それぞれのマネージャーに連れられた各アイドルが、集まった関係者たちをバラバラに回っていく。
 何年か前のこと。自分も弱小アイドル誌で取材はしていて招待されたが、そういう挨拶は大手メディアなどの偉い人から回るもの。壁の前でモーニング娘。やBerryz工房や℃-uteらが行き交うのを眺めながら、1人所在なげにしていたら、マネージャーの後ろを歩いていた真野恵里菜がこちらに気づき、自ら寄ってきて「ありがとうございました」と微笑んでくれた。後回しにすればいい無名ライターに。
 AKB48のブレイクから今日まで続くアイドルグループのブームに、自分はいちアイドルファンとして乗り遅れた。理由は明らかで、グループでなくソロで歌う真野恵里菜への思い入れが強かったから。
 ハロプロエッグ(研修生)の頃から飛び抜けてかわいい子だと思っていたが、インディーズデビューを経て、ハロプロでは7年ぶりにソロデビューというなか、その歌世界にも魅せられた。清々しくて凛々しい、彼女自身が体現されていて。
 デビューは2009年3月。当時AKB48が上昇気流に乗っていたが、エースの前田敦子と比べても真野恵里菜は何ひとつ劣ってないと思えた。というより、AKB48勢が束になっても真野の方が上ではないかと(*個人の感想です)。だが、AKB48はこの年に第1回選抜総選挙を行い、10月発売の「RIVER」で初のオリコン1位に。あとに続けとアイドルグループがドッと生まれ、以後はご存じの通りだ。
 真野も売れなかったわけではないが、理想の美少女アイドルと思えたポテンシャルに見合う大成には至らなかった。AKB48に負けたというより、時代の波に阻まれて。ソロではグループのようには握手会もこなせない。
 しかし真野はソロの身軽さを活かし、女優業も並行させていた。丹羽多聞アンドリウプロデューサーのBSドラマに始まり、堤幸彦氏が主宰する舞台「キバコの会」にも出演。堤氏に演技カンを買われ、この舞台に毎年出演したほか、「SPEC」(TBS系)で連ドラ初出演。人の心を読むSPECホルダー・サトリ役で、ロリータ衣裳に「サトリます」の振りもかわいく、人気キャラクターとなった。
 2013年に本格的に女優を目指してハロプロを卒業すると、すぐ「みんな!エスパーだよ!」(テレビ東京系)にレギュラー出演。清純そうで腹黒な女子高生・浅見紗英役で、「絶対に私でオナニーしてるよな」といった台詞もあった。監督は園子温氏。満島ひかりや二階堂ふみを発掘した園監督にも真野は認められ、「エスパーだよ!」の劇場版はもちろん、「新宿スワン」「ラブ&ピース」「リアル鬼ごっこ」と立て続けに起用された。
 ちなみに自分は「リアル鬼ごっこ」をシネコンで観たが、同じスクリーンから出た女子高生たちが通路のポスターの真野を指さし「このコ、何ていうの? すごくかわいかったね」と話していた。真野恵里菜を知らんのか……とも思ったが、同性に厳しそうな女子高生に「すごくかわいい」と言わせるのは「やっぱりね」とうれしくなった。
 往年のアニメを元に実写化した「THE NEXT GENERATION パトレイバー」シリーズでは主演。堤幸彦氏が真野を「求めるものを察知して的確に動いてくれる」と評したことがあったが、どの作品でも劇中の空気にジャストなたたずまいを醸し出した。プラス、演技者としての“ネアカ”も感じられた。「新宿スワン」でのリスカを繰り返すキャバ嬢役などでも、どこかポジティブに映る。小泉今日子や篠原涼子にも通じる、アイドル出身女優の特性かもしれない。
 現在は「結婚式の前日に」(TBS系・火曜22時~)に出演中。プライムタイムの連ドラ初レギュラーという以上に、彼女の女優歴にもたらす意味は大きい。これまでの役はサトリにしろ紗英にしろ「パトレイバー」のロボット操縦士・泉野明でも、アイドルのベースを活かしたキャラ系が多かった。
 「結婚式の前日に」で演じる広瀬真菜は国会議員の娘。病と闘う主人公・芹沢ひとみ(香里奈)の婚約者・園田悠一(鈴木亮平)とは家族ぐるみのつきあいで、彼を好きという恋敵ポジション。年齢も24歳の本人相応で、初めて一般向け連ドラでの大人の芝居が求められた。
 真菜はまずお嬢様ぶりが絶品。マンガチックでなく、そこはかとない品の良さが“いそう”に見える。そのうえかわいらしく男性なら誰でも惹かれそうで、悠一に「好きなんです」と告白すれば、ひとみに感情移入していたら気が気でない。
 8話では同居を始めた2人に、思いつめた目が何かしそうで怖かった。ひとみに「どうせ死ぬんでしょう! だったら今死んでよ!」と迫る。字面は暴言だが、お嬢様が壊れたようで痛々しくもあった。一途さの裏返しで止まらない……という女性像になっていて。視聴率は不振だが、真野は女優としてワンステップ上がった。
 振り返れば真野恵里菜のアイドル時代は、本人にもマノフレ(ファン)にも“青春”だった。「たった今ここから特別な領域」と歌う2ndシングル「はじめての経験」では、彼女との楽しい季節が始まる予感が溢れた。実際いくつも思い出ができて、「もう泣かないよ 君に逢えなくても」と歌ったラストシングル「NEXT MYSELF」で夢のような季節からの旅立ちを告げた。
 青春の思い出だけを残して消えていくアイドルも多い。だが、真野恵里菜は現在進行形で、思い出に浸る暇などない。大人になって女優として、長い道を歩いている。アイドルとしては辿り着けなかった場所の、その先を目指して。
 
 

ライター・旅人 斉藤貴志