わーすたがアイドル界の宝である理由

歌声が好対照なツインヴォーカルが
かわいいヴィジュアルの裏で強く光る

 理想のプロレスラーとは、普段はプロレスで観客を沸かせつつ、いざリアルな勝負になっても強い格闘技者だ。鞘に竹光でなく真剣をしのばせているような……って、ガールズサイトで何の話やねん? だけど、アイドルに対しても同じことを思う。かわいさだけでも魅せられる女の子が、とてつもない斬れ味の武器を光らせたら、もう完全にシビれる。
 以前、乃木坂46の高山一実が番組企画で楽屋を隠し撮りされていたなか、ある5人組アイドルを雑誌で見て「かわいい子が2人いると違うね」と言って一部で物議を醸したが、うなずける話ではあった。ところが、わーすたは2人どころではない。初めて見たとき「5人ともすごくかわいい!」と驚愕した。初お披露目は去年の「iDOL Street Carnival」。そのとき、観客の大多数が「全国のストリート生から少数精鋭で選ばれたメンバーだけのことはあるゾ」と思ったはずだ。
 同時にステージを観て、オッサン世代として「SPEEDみたいだ」とも感じた。もちろん方向性はまったく違うが、ツインヴォーカル+パフォーマーというスタイルに、かつての伝説的グループがよぎったからだ。しかも聴き込むと、廣川奈々聖と三品瑠香のツインヴォーカルは持ち味が好対照な分、めくるめく感じでワクワクする。そこはSPEEDにもなかったものだ。彩りを付ける他の3人のダンスもとても良い。
 そもそも個人的なことを言うと、自分は大人数のアイドルグループの楽しみ方に長けてない。いわゆる戦国時代以降のアイドルで最もハマったのは真野恵里菜だし、グループも「このコがいるから好き」となりがち。逆に、推しが卒業したグループには興味が失せたり。しかし、わーすたは5人のバランス感も良く、珍しくグループとして好きになった。
 と言いつつ、デビューアルバム「The World Standard」に付いていたライブのDVDを鑑賞していたら、「好きな人とか居ますか」を切なげに歌う廣川奈々聖のキュートさに「かわいい!」と思わず口に出てしまったが、ソレはソレ。ちなみに、そのDVDは当サイトの井上編集長らと観ていて、編集長は三品瑠香の美貌とスタイルの良さに高まり、ツイートを連発していたが、その話も置いておく。
 松田美里がモデル体型に天然キャラで面白いとか、坂元葉月の全力感とはにかむような表情にも惹かれるとか、小玉梨々華のほんわかした雰囲気に安らぐとか、とにかくわーすた、たまらん! とか、いろいろあるけど、今回言いたいのはそこではない。何はともあれツインヴォーカルが素晴らしい、という話だ。
 わーすたはただ歌の上手いメンバーが2人いるだけではない。廣川と三品の声質や歌い方が対照的なのが強い。廣川の歌声はくすぐり感がある。シャクリも絶妙で、ときめかせる。いわゆるアイドルらしいヴォーカルだが、安定感も備わっている。ベースを固めたうえで、曲調に対応しているのだろう。対する三品のヴォーカルはクールでカッコいい。普段は子どもっぽい彼女が、歌うと急に大人びるのも目を引く。本人はもともとダンサー志向で、スト生オーディションも「ダンスだけで受かった」と話しているが、歌カンが良いというか天才型なのだろう。
 そんな2人の色合いの異なる歌声が交錯し、曲に豊かな波動とグラデーションを付けられるのが、他のグループにはないわーすたの魅力。歌割りがこまめに切り替わる「ワンダフル・ワールド」などはわかりやすい。ただ、わーすたは2人の歌の上手さとコントラストをこれ見よがしにはしていない。ライブの人気曲「いぬねこ。青春真っ盛り」や「うるとらみらくるくるふぁいなるアルティメットチョコびーむ」などは、松田の「にゃいにゃい」や小玉の「にゃこにゃこ」も入ったりで単純に楽しい。ヴォーカル力はいわばスパイス。アイドルは基本それでいいと思う。
 一方で、廣川と三品のユニット曲「好きな人とか居ますか」はとんでもないハイトーンがあったりと、難易度は相当高いはずだが、2人はファルセットもきれいに使って歌い上げている。「Zili Zili Love」など大人系の曲もそう。猫耳のかわいいアイドルが猫耳を取り、凄まじく斬れる真剣を抜いてふるったような風圧にゾクッとくる。
 わーすたは“世界標準”が旗印。プロデューサーの鈴木まなかが作る楽曲もアメリカ産のカントリーミュージック、ブラジル音楽であるボサノバ、エレクトロスイング、ゲーム音楽や童謡風まで実にテイストが幅広い。1stシングル「完全なるアイドル」はヴィジュアル系ロックだ。歌詞は笑うけど。こうした多岐な曲を歌いこなすうえでも、スタイルの違う2枚看板を持つことは大きい。
 よく思うのだが、アイドルグループが“グループ”である意味合いは、主にダンスパフォーマンスに注がれていて、ヴォーカルではせっかく複数で歌うメリットを生かし切れてないことが多い。だからこそ、わーすたのツインヴォーカルは宝である。アイドル多すぎだろうが猫耳しんどかろうが、5人があれだけかわいいうえに、こんな飛び道具まで仕込んでいたら、世界もザワつくはず。
 
 

ライター・旅人 斉藤貴志