PICK UP ACTRESS 萩原みのり

PICK UP ACTRESS 萩原みのり

PHOTO=河野英喜 HAIR&MAKE=宇賀理絵
STYLING=瀬川結美子 INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

映画「ゆらり」で父親のいない役
秘めた想いを伝える場面が感動的

 
 
――「ゆらり」で演じた民宿のアルバイトの瞳は、幼い頃に父親が家を出ていった設定ですが、みのりさんはお父さん子だそうですね。小さい頃によく遊んでいたとか?

「大きくなるにつれて、どんどんお父さん子になったので、今のほうが父の近くにいるようになりました。小さい頃は“休みの日=習いごと”で、父ともあまり一緒にいなかったのですが、今ではオフがあれば、ちょっとでも父に会いに愛知の実家に帰る感じですね」。

――どんなお父さんなんですか?

「うちの父はアクティブで、突然『山登りに行くぞ』と言ったり、『今日、馬に乗るぞ』といきなり乗馬に連れていかれたり、小さい頃からいろいろなことに触れる機会を作ってくれました。最近流行りのボルダリングに行ったこともあります」。

――劇中では瞳のお父さんが宿泊客として民宿に来ましたが、どこかの時点で瞳は自分の父親だと気づいたと解釈しました?

「観た人が決めてくれたらいいかなと思うので、それははっきり言わないでおこうと思っています。演じているときは自分のなかでどうなのかは抑えていましたけど、それを明白にすると薄くなってしまう気がするので」。


――民宿のおかみさん親子や宿泊客たちが集まった中で、最初は「お父さんと会いたいとは思わない」と言っていた瞳が……というクライマックスの長いシーンは、何テイクも撮ったんですか?

「2回くらいやったのかな? 監督がスタートから私の気持ちの流れを全部作ってくださったので、すごくやりやすかったです」。

――みのりさんの演技にはいつも、役が積み重ねてきた年月を感じられる気がします。瞳の目に涙が溢れるところも、彼女がどんな想いを秘めて生きてきたかが出ていてグッときました。

「やっぱり言いたくてもずっと誰にも言えなかったことが、瞳にはあったと思います。家族には会いたいに決まっているじゃないですか。でも、それを口に出してしまったら余計に寂しくなる。口に出さないからこそ我慢できる。だから、今までずっと溜め込んできたものを初めて人に話すのは、すごく大きなことだと思うんです。現場ではテストとかを含めて4~5回は同じことを言うんですけど、本番ではまた全部フラットな状態に戻してやりました。そこだけは“初めて言う”という鮮度をすごく意識しました」。

――10何年抑えてきたものを初めて出す重み、ということですよね。そういう演技をベテランの役者さんがして感動することはありますが、若いみのりさんが自然にやっているのがすごいと思います。

「父親との関係性が出ていたりするので、自分がお父さん子というのは大きかったんだと思います。瞳はお父さんの今の顔をわかっていない中で“お父さん”という存在に対する気持ちがあるので、私が思い浮かべたのは自分の父だったりはしました。そこから瞳が昔嗅いだであろうお父さんの匂いとか、見ていた背中とかを想像して……ということはやっていました」。


――あの涙も“うれしい”とか“悲しい”とか簡単な言葉では説明できないものですよね?

「『フタを開けないで!』という気持ちはすごくあったと思います。何年間もずっと閉じ込めていたものが、民宿のおかみさんの言葉から溢れ出してしまう怖さ。でも、それを全部出してしまってからは、言葉のままの気持ちで演じました」。

――そのシーンを、完成した映画で自分で観ると?

「『ブスだな』と思いました(笑)。『うわーっ! こんなに泣き顔はひどいのか……』って」。

――それぐらいリアルに演じられた、ということでは?

「まあ、そうですかね。画面の中で不細工な顔をできる女優でありたいと思っています。人って常にきれいではないから。すごくきれいな瞬間もあっていいけど、そうでない崩れた瞬間もあっていい。ただ、あんなにアップで自分の泣き顔を見られるとは思わなかったので『アーッ! アーッ! アーッ!』となりました(笑)」。

――バス停でお父さんと話したシーンの瞳の気持ちは、自分のなかで消化できました?

「あそこは本当にギリギリまで、監督とお父さん役の戸次(重幸)さんと3人で、どうしたらいいのか話し合いました。そこも結局、『どう取るかはお客さんに任せる』ということになりました」。

――こういう感動作を、演じた自分で観ると、どんな気持ちになるものですか?

「いまだに自分が出た作品はどれも、客観的には観られないですね。ただ、自他ともに認めるファザコンとしては、お父さんと娘の関係を描く作品はひとつの夢だったので素直にうれしかったし、『お父さん、観てよ』と思いました(笑)」。


――本当のお父さんに観てもらうのは、テレません?

「だから直接『この映画を観て』と言ったことはないし、父も観ているのに観てない振りをするシャイ系なので(笑)、仕事のことを聞いてはきません。でも、今回もたぶん観てくれるとは思います」。

 
 

日常の中で「あの役なら」と
考えることがすごく好きです

 
 
――瞳が外にいたおかみさんの幼い娘を「『アンパンマン』始まっちゃうよ」とか言って連れ帰ろうとするような何気ないシーンも、何だか胸に残りました。

「私、弟といとことかを合わせて年下の親戚が10人いるんですね。長女だし、いとこの中でも一番年上。親戚が実家に集まると、大人は大人で固まって、子どもはみんな私に預けて……みたいな感じだったから、常に自分の周りに小さい子がいたんです。母親代わりみたいなことをして、子どもがすごく好きだったから、現場でも子役の(筧)礼ちゃんと遊んでいました」。

――どんなことをして?

「撮影した民宿に掘りごたつみたいなのがあって、気づくと礼ちゃんはそこにいて、めちゃくちゃかわいいんですよ。ひたすら写真を撮ったり、礼ちゃんのお母さんに礼ちゃんのことを聞いたりしました。私、普段の現場ではあまりしゃべらなくて、控え室の隅っこに隠れているタイプなんです。でも今回は、役を通した距離感で礼ちゃんと接していたら瞳の演技にも役立つと思って、あえて礼ちゃんの近くに行って話したりしました」。

――そういうことも含め、みのりさんはいわゆる“役作り”をきっちりするタイプですか?

「どうなんだろう? わかりやすく『役作りのためにこういうことをしました』みたいなのはないですけど、たとえば電車に乗っていて『あの役の子だったら、ここでどうやって乗るんだろう?』とか考えるのはすごく好きです。カフェで『あの子になろう』と自分の中でモードチェンジをすると、音楽を聴くときの姿勢も変わったりします。そういうちょっとしたことがお仕事を始めたときから好きで、日常生活の中で『あの子だったら……』と考えています。ただ、それを役作りと言っていいのかは、自分でも謎です」。

――なんかみのりさんって、「ガラスの仮面」の北島マヤっぽい感じがします。

「そうですか(笑)? 『ガラスの仮面』は新体操をやっていたときに、友だちに借りて読みました。ああいう女優さんのお話は大好きです」。


――「ゆらり」に出演して、改めて家族について考えたことはありました?

「家族が愛してくれるのは当たり前だと思ってましたけど、そうではなくて、家にいたらお父さんが帰ってくるのが、当たり前ではない家庭だってある。だから、もっと家族に感謝しなきゃいけないと思って、愛知に帰る回数が増えました。休みが1日でもあれば、顔を見に行くようになりました」。

――東京から名古屋まで新幹線で1時間半以上かかりますが……。

「そうですね。実家に帰っても友だちと遊びまくって、家では寝るだけという時期もありましたけど、今は家族とごはんを食べるためだけに帰ったりもします。あと、普段もすごく連絡を取るようになりました。前は面倒くさくて、お母さんからのLINEを『なんでこんな小さなことを聞いてくるんだろう?』と思って、適当にスタンプだけで返したりしていたのが(笑)、最近は自分から『何してるの?』みたいな些細な連絡をしています。おばあちゃんとも長電話したり、家族と触れ合うきっかけを自分で増やせるようになったかな」。

――「ゆらり」は去年の6月に撮影したそうですが、それ自体が最初に出た「どんどんお父さん子になった」きっかけのひとつでもあって?

「いえ、父の私に対する距離感が大きく変わったのは、高2の頃に私が大きな手術をしたときで、そこから一気に近づきました。実家に帰ると、車の助手席の取り合いを母としています(笑)」。

――微笑ましいご家族ですね。「ゆらり」を撮影した能登島の環境は、みのりさんには新鮮でした?

「はい。朝、ホテルで初めて太陽の日差しで起きました。目覚ましが鳴ったのではなく『まぶしいな』と思って。『ああ、朝だ』みたいな感じで、とても気持ち良かったです。『なんて優雅なことをしているんだろう』と思いました」。


――早朝だったんでしょうけど、起きるのが辛い感じではなくて?

「ホテルから現場に着くまでも、ものすごく良い景色のなかを車が走っていくんですね。『こんな素敵なところでお仕事できるなんて幸せだな』と思いました。その景色を眺めているだけで『今日も頑張ろう!』という気持ちになりました」。

――公開される今の季節は、みのりさん的に“○○の秋”みたいのはありますか?

「いつもの年なら楽しい食欲の秋ですけど、今はダイエット中なので(笑)。でも急に本を読むようになって、気づいたら典型的な読書の秋になっています」。

――急に読書家になったんですか?

「また父の話ですけど、毎晩本を読む習慣があって、眠くならないようにお酒を控えるくらい、その習慣を大事にしている人なんですね。その父から突然、私に『これ面白いから読んで』と本が送られてきて、その本について父と話したいから読んだら面白くて……。そういう感想を父に話したら、またオススメの本が送られてきて……という感じです」。

――どんな本を読んでいるんですか?

「最初に送られてきたのが『マチネの終わりに』という恋愛小説で、今は『百年法』という本を読んでいます。不老不死が実現して、でも法律で100年経ったら死なないといけないことになって……という難しい話で、上・下巻あってすごくぶ厚いんですけど、父が送ってきたからには読もうと(笑)。自分からは読まない本を父がきっかけで読めるのがうれしいです」。


 
 


 
 

萩原みのり(はぎわら・みのり)

生年月日:1997年3月6日(20歳)
出身地:愛知県
血液型:B型
 
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2013年にドラマ「放課後グルーヴ」(TBS系)で女優デビュー。主な出演作はドラマ「さよなら私」(NHK)、「表参道高校合唱部!」(TBS系)、「ソースさんの恋」(NHK BSプレミアム)、映画「劇場版 零~ゼロ~」、「人狼ゲーム クレイジーフォックス」、「64 -ロクヨン-」、「昼顔」ほか。初主演映画「ハローグッバイ」が深谷シネマ(11月12日(日)~)、あまや座(11月18日(土)~)、キネマ旬報シアター(11月25日(土)~)などで順次公開中。映画「ゆらり」は11月4日(土)から池袋シネマ・ロサほかで全国順次公開。「一礼して、キス」が11月11日(土)より公開。

詳しい情報は公式HP
 
 

「ゆらり」

詳しい情報は公式HP
池袋シネマ・ロサ(11月4日(土)~)、ミッドランドシネマ名古屋空港(11月11日(土)~)、大阪シアターセブン(11月25日(土)~)ほか全国順次公開。
 

 

(C)2017映画「ゆらり」製作委員会
 
 

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