舞台裏のプロフェッショナル
舞台「失神タイムスリドル」演出・脚本 吹原幸太

舞台裏のプロフェッショナル 舞台「失神タイムスリドル」演出・脚本 吹原幸太

PHOTO=古賀良郎 INTERVIEW=村田穫

大人になった4人がどうなっているのか
垣間見えるような舞台にしたいです

――まずは舞台「失神タイムスリドル」の演出・脚本を担当することになったきっかけを教えてください。

「去年、自分が主宰する劇団(ポップンマッシュルームチキン野郎)の公演に、ワタナベエンターテインメントさん所属の女優さんが出演してくださって。そのときに高橋胡桃さん、玉川来夢さん、橋本楓さん、橋本瑠果さんのマネージャーさんと知り合ったのがきっかけで、今回、4人がメインを務める舞台の演出と共同脚本を担当することになりました」。

――今回の舞台は“おばさんになった元アイドルが現役時代にタイムスリップする”というストーリーですが、どこからその発想が出てきたのでしょうか?

「脚本に関してはA・ロックマンさんとの共同脚本だったので、2人で毎晩のように話をしながら、1週間ぐらいかけて大筋を書き上げました。A・ロックマンさんとは歳は離れているんですけど大学の先輩に当たるので話しやすかったし、アイドルに興味を持っていた時期もあったみたいなので、色々なアイドル話を聞かせていただきました。そのとき気になったのが“今は華やかなアイドルも、必ず歳を重ねておばさんになっていく”という現実です。そこで、今回主演の4人の行く末を想像してみるのも面白いと思い、“現役時代のアイドル”と“その後のアイドル”を結び付けてみたんです。そんな経緯だったので、大人になった4人のキャスティングがとても重要になりましたね」。

――吹原さんは今回の舞台以前からこの4人をご存じだったのでしょうか?

「アイドルグループ(アイドリング!!!)に所属していたということを知ったのは、マネージャーさんと知り合ってからです。ただ、玉川さんに関しては出演されている舞台を観たことがあったので存在は知っていました。その頃はまだ情報を得る前だったので、ひとりの舞台女優として認識していましたね。他の3人に関しては、今回、初めてお会いしました」。

――そこで、アイドリング!!!が好きな渡辺裕太さんにレクチャーを受けたと?

「同じ劇団員として、裕太からは色々と聞きましたよ。ただ、一生懸命語ってくれるんですが、基本的にファン目線の話だったので、演出に通じるような情報は少なかったですね(笑)。でも、アイドルに対するファンの熱い想いは十分伝わりました」。

――それでは4人それぞれの印象を。

「瑠果さんは言葉や表情に嘘が無いですね。初対面のときに少し時間があったので軽いお芝居をやってもらったんですけど、その時にそれを強く感じました。おそらく生き方に嘘が無いんでしょうね」。

――あの歳で嘘があったらショックですよね(笑)。

「確かに(笑)。だから、それが芝居にも出ていて、人の心を打つ声が出せる子だなって感じました。こういった部分って、これぐらいの子が演技するときにすごく大事なことなんですよ。あとは、すべてにおいて積極的なところがいいなと思いました」。

――積極性を感じるエピソードなどがあれば。

「今回の4人はみなさん若いので、頭ごなしに『こうしなさい!』って言いたくないんですよ。だから『どうしたらもっとよくなると思いますか?』って尋ねるんです。そんなとき、最初に意見を言い出すのが瑠果さんなんですね」。

――年齢の割には堂々としていると。

「年上の人にも動じないんですよね。だから、現場でも雰囲気にのまれないんです。このあたりは学んで身につくことではないので、持って生まれた気質だと思います」。


――お姉さんの楓さんはどうですか?

「性格や雰囲気は正反対ですよね。だけど、芝居のいい部分は瑠果さんと一緒なんですよ」。

――“言葉や表情に嘘がない”ということですか?

「その通りです。それは、いい意味で“女優としてこう見られたい”“演技がうまいと思われたい”という気持ちが無いからだと思います」。

――そういった気持ちは無い方がいいんですか?

「そうですね。一概には言えないですけど、基本的に人は日常生活においてそんなこと考えてませんからね。だから突き詰めて考えれば、誰かを演じる上でそういう気持ちは無い方が絶対いいと思います。アイドルって見られる仕事なので、そこから転身すると、どうしても“こう見られたい”という自分が出てくると思うんですよ。そうなると、根っこの部分でその人の芝居では無くなってしまうんですね。その意味では、2人とも“自分は自分”というフラットな気持ちで演技ができているので素晴らしいですね」。

――“嘘の無い姉妹”というのは橋本家の環境がそうさせたのかも知れないですね。

「そんな感じはしますね。ぱっと見は正反対なんですけど、本質が全く一緒というところがすごく面白いです」。

――楓さん本人は演劇の経験が4人の中で一番少ないことを気にしていましたが……。

「もちろん経験があったほうがいい面もありますけど、演技って持って生まれた色味が大事なので、それほど気にすることは無いですね。楓さんには楓さんにしかできない演技がたくさんあるので、そのあたりを出せばいいと思います」。

――滑舌の練習もしていて、「ういろう売り」に取り組んでいました。

「そうですか。それじゃ、その効果が出ていますね。滑舌が悪いという印象は無いです」。

――高橋胡桃さんの印象は?

「高橋さんは天性の華を持っていますね。人が100人並んでいたら、どうしても最初に目が行くタイプなので、芝居でも脇で使うという感じはなかったです」。


――キラキラしていると言うかオーラがあると言うか……。

「僕の中では白鳥のイメージですね。華があるけどその中にはかなさもあるという。“華”と“はかなさ”は主役の条件だと思っていて。だから、今回もストーリーで一番中心的な役割の子をやってもらうことにしました」。

――芝居に対する姿勢はどうですか?

「芝居に対してはすごく貪欲で真面目ですね。稽古のときも色々と聞いてくるし、僕の言うことをもれなく理解しようとしてくれる姿が印象的です」。

――19歳にしては大人だと。

「そうですね。4人の中では一番大人の雰囲気が漂っています。自分が19歳の頃とは比べものにならないくらいしっかりしていますね(笑)」。

――以前、舞台で観たことがあるという玉川さんは?

「玉川さんは4人の中で一番舞台経験があるだけあって芝居が抜群にうまいですね。台本を理解するのも早いし、間を埋めるのもうまい。どんな役でもこなせるという印象です」。

――どんな役でもこなせるという印象は、以前、舞台で観たときからですか?

「舞台で観たのは結構前だったので、そこまでの印象では無かったんですが、今回改めてお会いしたときに強く感じました」。

――変幻自在といった感じでしょうか?

「そうですね。ただ、逆に言えば“どんな役でもこなせちゃう”ということでもあるんですよ」。

――舞台経験があるがゆえに感じるという?

「これは経験豊富な役者さんすべてに共通することなんですけど、“この人はどういう芝居が一番切実なんだろう?”って思うことがあるんですね。玉川さんにもそういった部分があるので、“本当の玉川さん”“今の玉川さんにしかできない芝居”というところにアプローチしたいです」。

――今回の舞台でこの4人に望むことは?

「瑠果さんはいい意味で調子に乗ってほしいですね。その自由奔放なところをどんどん出していってほしいです。楓さんは舞台経験が少ないせいか慎重な部分があるんですよ。ただ根は瑠果さんと同じ自由だと思うので、経験値を気にせず調子に乗ると、もっと魅力が伝わると思います。高橋さんは天性の華があるので、人を引き付ける芝居をしてほしいですね。玉川さんは芝居に関する武器が多いので、女の子に対して何ですけど、狼のように牙を研ぎ澄ませてほしいです」。


――先日、4人の役柄が発表されました。オーディションによって役を振り分けたそうですが、決め手になったのは?

「脚本と照らし合わせて“どの役をやったら4人が一番輝けるか”という点に尽きますね。だから4人の素の部分は度外視して、オーディションでは本読みやエチュードなどを重視しました。それを元に、様々な組み合わせで“この子がこの役をやったらこうなるな”というイメージを脳内で再生し、最終決定しました」。

――この組み合わせがベストだと。

「自分ではそう思っています。ストーリーの中心となる主役の“みづき”が高橋さん。比較的おっとりしている“ゆめこ”が楓さん。コメディ部分の核となる“かなえ”が瑠果さん。クールで気が強い“ななか”が玉川さんになりました」。

――なんとなく、本人たちが予想していた役柄になったと思います。
  (「PICK UP IDOL ビターチョコレート」を参照)

「やっぱり、本人たちも感じる部分があったんでしょうね。役も決定したので、これから脚本や台本にどんどん微調整を加えていきたいと思います」。

――こうした微調整というのは出てきたほうがいいものなんですか?

「絶対に出てきた方がいいと思います。本来、会話って、誰かに言われた言葉に反応して、自分の言葉で返すのが自然じゃないですか。あくまで会話劇の台本っていうのはそれを手助けするためのものなので、“この人だったらこう言うだろう”ということを考えていくと、生き物のように変わっていくものなんです。微調整が多いほど、より自然に近付く感じですね」。

――稽古もすでに始まっているんですよね。

「まだ始まったばかりですけど、みなさん伸びしろがすごくありますね。それこそ1年ぐらい集中して取り組めばものすごいことになると思います。その意味では、女優をやる上で、これからの1年、2年というものがいかに大事な子たちなんだろうということを痛感しました。あとは、僕が彼女たちにどう伝えられるかです。そんなことを考えながら稽古をやっています」。

――舞台では、4人のどんなところに注目してほしいですか?

「おそらく、これまでにかいたことの無い汗をかくと思うんですよ。それは肉体的な汗だけではなく、芝居をしている彼女たちの心がものすごく動き続けることによって出てくる心の汗なんです。だから、見た目はそれほど汗をかいていないかもしれませんが、“心でものすごく汗をかいているんだ”という部分、心の燃焼からくるデトックスに注目してほしいなと思います」。


――もちろん、アイドルとしてのシーンも見どころですよね。

「ビターチョコレートのライブシーンは当然見せ場のひとつで、重要なファクターになっています。わかりやすく言えば映画『ロッキー』の試合のシーンみたいな感じですね。ライブシーンに向けてストーリーも展開しますし、他のアイドルグループも歌ったり踊ったりするので、楽しんでもらえると思います」。

――ここ数年、アイドルが舞台に出演することが増えてきましたが、どう思いますか?

「すごくいいことだと思います。アイドルは人を引き付けるのが仕事なので、これほど舞台に向いている人達はいないんじゃないかと思いますね。舞台って生ものなので、その人の人間力や魅力が問われるじゃないですか。畑が違うと言う方もいますけど、僕は演劇とアイドルの違いは野球とソフトボールの違いぐらいだと思うんです。もちろんルールは違いますけど、それは修正すればいいだけの話ですよね」。

――脚本家や演出家としてもアイドルが出演すると違いはありますか?

「ありますね。あると言うよりは違いを出したいという気持ちが強いです。10年以上自分の劇団で脚本や演出をやってきましたが、同じメンバーでやっているときは、どうしても違いが出しづらいんですよ。過去の経験から“芝居作りってこんな感じでやればできるよね”という既成概念があるので。そう考えると、自分の可能性や引き出しを増やすいい機会になっていますね。この4人と稽古場で会うときは、今までに無かった自分になっています(笑)」。

――この4人ともう一度舞台をやるとしたら?

「今後も色々とやっていきたいけど、一番面白いのは、10年後ぐらいにものすごく成長した4人と舞台をやることですね。大人になった彼女たちはどうなっているのか? すごく楽しみです。今回はそんな未来が垣間見えるような舞台にしたいですね」。


吹原幸太(ふきはら・こうた)

生年月日:1982年12月23日
出身地:福岡県
血液型:AB型

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脚本家、演出家、構成作家、小説家、俳優、声優。
2005年、法政大学在学中に劇団「ポップンマッシュルームチキン野郎」を旗揚げし、主宰となる。演劇活動の傍ら、デビュー作となったドラマ「オトメン」をはじめ、映画「日々ロック」、ドラマ「天才バカボン~家族の絆」など、多数のテレビドラマや映画で脚本を担当。自身が脚本を務めたテレビドラマ「超絶★絶叫ランド」のノベライズを手がけたのをきっかけに、小説家としても活動中。

詳しくはホットポットクッキング Presents「失神タイムスリドル」公式HPへ