PICK UP ACTRESS 木竜麻生

PICK UP ACTRESS 木竜麻生

PHOTO=小澤太一 INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

映画「鈴木家の嘘」でヒロイン
兄の自死で複雑な想いを……

 
 

――「鈴木家の嘘」で演じた鈴木富美は大学の新体操部員の設定で、練習シーンもありましたが、麻生さん自身が新体操をやっていたそうですね。

「小・中と7年間やってました。中学のときは休みもあまりなく、毎日練習していた記憶があります」。

――大会で好成績を残したりも?

「新潟では県大会のあとに北信越大会があって、そこを勝ち上がると、さらに上に行くんですけど、北信越大会までは2年生のときに先輩方と一緒に、チームで出場しました」。

――麻生さん自身も活躍して?

「いや……。私は体が柔らかいほうではなかったんです。でも、手具を扱うのは好きだったので、頑張ってはいました」。

――今回の撮影に当たり、4カ月間、新体操の練習をしたとか。

「ずっと運動をやっていた役ということで、『もしそういうシーンがあるのなら、ブランクが空いているので練習させてほしい』とお話しました」。


――自分から希望して?

「はい。もともと富美は陸上部の設定で、陸上の練習はあると思ってました。そしたら私に合わせて新体操部に切り替えてくれたと聞いたので、『練習したいです』とお願いしました。監督もそのつもりでいてくださって、国士館大学の新体操部で4カ月くらい、練習させてもらいました」。

――女優さんとして真っ当な姿勢だと思いますが、女相撲の話だった主演作「菊とギロチン」と違って、今回は新体操の映画ではないですよね。それでもカンを戻すだけではなく、4カ月も練習をしたわけですか?

「たぶん自分がやっていた競技だったことが大きくて、『やってる人が見たら、ちゃんとできてないところがわかってしまう』と思ったんです。だから、経験してきた新体操をまたやるのは、『菊とギロチン』で相撲をやるより、かえって緊張しました」。

――普段は何か運動しているんですか?

「定期的に何かしたり、走り込んだりはしていませんでした。新体操の練習に行かせていただいて、最初に『こんなに動けなくなっているんだ……』と感じたので、その4カ月は家で筋トレやストレッチもやってました」。

――「鈴木家の嘘」は富美の兄にあたる長男の自死を、ショックで当時の記憶を失った母に隠すため、家族や親戚が嘘がバレないように奮闘する物語。麻生さんは「どうしても富美を演じたかった」とコメントしてました。

「オーディションのためのワークショップを4日間受けさせていただいて、脚本を読んでいく中で、富美の感覚や抱えている気持ちに『すごくわかるな』と共感したんですね。母から見た息子、父から見た息子が描かれていて、妹から見た兄という目線もすごく大事に思えました。もちろん愛はあるけど、悲しさから怒ってしまったり、憎しみに近いものまであったり……。そこで富美が感じているものが、いいなと思いました」。

――作品の中でそういう感情も描かれているのがいいと?

「そうです。ただ悲しいとか、ただ切ないという描き方ではなく、富美のように感じている人間がいるという脚本が素晴らしいと思いました。そこが私にとって『わかるな』と感じる部分でもあったので、ワークショップを受けて、すぐ富美をやりたい気持ちになりました」。


――「わかる」というのは、麻生さんにも実際お兄さんがいるから?

「はい。兄と弟がいてケンカもするので、自分でよくわからないまま怒っちゃうとか、悲しいけどどうしたらいいかわからないとか、そういう感情はわかる気がしました」。

――ワークショップで麻生さんがボロボロ泣いてしまったこともあったとか。

「それは2日目だったと思います。私も身近に亡くした人がいるんです。家族や親類ではないですけど、小さい頃から近くで一緒にいた人でした。その人のことは考えたつもりでいたけど、きちんと考えてはいなかったことをワークショックですごく気づかされて、2日目にその想いがブワーッと溢れてきました。そして、その人のことをちゃんと考え始めたら、昔の私が感じていなかったものが出てきて、いっぱいいっぱいになってワーッと泣いてしまったんです。その日は監督に『もう帰っていい』と言われました。だけど、それがあったからこそ、この映画にも自分自身にも向き合えた気がします。さっき言った『この役をどうしてもやりたい』という想いと同時に、『ワークショップを受けられただけでもすごく大事なものをもらえた』とも感じました」。

――野尻克己監督はそのときの麻生さんを見て思わず笑ってしまったそうで、「泣いてる姿さえ滑稽に見えてしまう彼女が、この映画を明るいトーンにしてくれた」と評しています。

「全然自覚はありませんでした(笑)。でもワークショップに行く初日に、横断歩道で信号待ちしていたとき、監督がちょうど後ろにいたそうなんですね。私は気づいてなくて、緊張しながらボーッとして、何も考えてなかったと思いますけど、空を見ている後ろ姿が何かヘンだったらしいんです(笑)。監督は後ろで『おかしなヤツがいる』と思っていたと、あとから聞きました」。

――それがワークショップを受けた400人の中から、麻生さんが富美役に選ばれた要因のひとつだったようです。

「本人は本気で一生懸命なんだけど『そこに面白い部分がある』と、監督に言っていただきました」。

――普段の麻生さんはそういう明るいキャラなんですか?

「どうなんでしょう? 普通に明るいとは思います。でも、たぶん同じくらい、富美のように、考えていることを言わずに自分の中でグルグルさせているところは、私自身にもあるような気がします。そういう部分が富美と近いのかなと思います」。


――富美のように家族に対して「ひどいことを言ってしまった」と悔やんだことも?

「それもあるし、思っていることがあるくせに言わないで、ちょっとだけ顔に出したりもしました。そういう妹のズルい部分、わがままな部分が、たぶん私にも富美にもあると思います」。

 
 

役で思い切り嘘をつくために
普段は嘘をつきたくない

 
 
――家族を自死で亡くした遺族たちが語り合う集まりで、富美が兄に宛てた長い手紙を「お兄ちゃんのこと許さない!」とか泣いたり叫びながら読む場面は、引き込まれました。

「ワークショップを受けるための面接から、あのシーンがあることは知っていて、ずっとやってきました。本番では監督から台詞について『言ってほしい部分はあるけど、こめられた気持ちをちゃんと持っていたら、言葉が変わってもいい。思った通りやってほしい』と言われたので、緊張はしましたけど、入り込めないことはありませんでした。撮影もなるべく順撮りにしていただいて、ちゃんと富美の気持ちが動いてきたので、やり辛さはなかったです」。

――涙や鼻水も自然に出て?

「そうですね。泣きすぎて顔が変わるくらいで、テイクを重ねるとメイクさんに『同じ場面につながらない』と言われながら、保冷材を当てられたりしました(笑)。でも無理したわけではなくて、むしろ抑えないといけないタイミングで涙が出てしまうので苦労しました」。

――本当に吐きそうになるくらい泣いたり?

「はい。ボロボロ、グズグズと、すごい量のティッシュを消費したと思います(笑)」。

――この映画は重いテーマも抱えつつコミカルなタッチで、富美もお母さんの言葉で食べていたそうめんを吐き出す場面などがありました。

「一緒にやった叔父さん役の大森南朋さんが、すごい量を吐くんですよ(笑)。撮っているカメラマンさんのズボンにそうめんが飛んじゃうくらい思い切りやってくださったので、横でそれだけやってくれたなら私も……となりました。叔父さんとのシーンは他とちょっと違った感じだったので楽しかったです。本当にこの映画は重かったり芯が強かったりする中で、ちょっと笑えるところが素敵だと思うので、そこはきっちり笑ってほしくて、思い切りそうめんを吐き出しました(笑)」。


――麻生さんは嘘をつかざるを得なかったことはありますか?

「このお仕事を始めてからは、逆に嘘はつきたくないと思うようになりました。作品に関わって自分が役を演じる中でも、普段の生活でも……。だから、社交辞令でも思ってないことは言いたくないなと、今は前より意識しています」。

――なぜ仕事を始めてから、そう思うようになったんですか?

「役を演じるにしても、自分という人間があった上だから、完全にその人になることはない気がするんです。ドキュメンタリーは別として、フィクションなら映画の中で嘘はつく。だったら、それをやる自分自身は嘘をつきたくない。普段から嘘をついている人には、きちんとした嘘はつけないと思うんです。なので私は普段は嘘をつかないで、映画の中で思い切り嘘をつきたいです」。

――なるほど。それもまた女優さんとして真っ当な姿勢だと思いますが、麻生さんって本当に真面目ですよね。

「はい(笑)。自分ではあまり思ってないんですけど、『真面目すぎるくらい真面目』と言われます」。

――自分では普通にやってることが真面目と言われるような?

「わりとそうですね。でも、自分でも『堅いな』とは思います。兄が私と正反対で、重く受け止めるところと気にしなくてもいいところのメリハリをつけられる人なんです。そんな兄を見ていると『ああ、私はすべてを真に受けるタイプだ……』と感じます」。

――どんなときに自分のそういう部分を感じます?

「ハメを外せません。ワーッとなってる人たちと一緒にワーッとできないんです。何と言うか、オシャレな人たちとは……って、オシャレな人たちを否定するわけではなくて、イケイケな人たちは……という言い方もますます違う(笑)」。

――そういうふうに、ひと言に気を配るところも真面目かと(笑)。

「一緒に楽しむことは全然しますけど、たとえば家に帰らないで朝までワーッと……というのはしたことがないというか、できなくて……」。

――オールはしないで終電までに帰る?

「はい。家に連絡もこまめに入れようと思っちゃいます(笑)」。

――そんな中で、息抜きでしている趣味とかはありませんか?

「息を抜くタイミングということだと、実家に1歳と0歳の甥っ子がいて、ちょっとずつ成長していく様子を動画や写真で見せてもらったり、テレビ電話で手を振ったりしているときです。あまり何も考えず、単純に『かわいいなー』と思って癒されてます」。


――今後は女優として、やっぱり演技派を目指していくんですか?

「あまり先の展望は見えてませんけど、『鈴木家の嘘』で岸部(一徳)さん、原(日出子)さん、岸本(加世子)さんたちとご一緒して、感じたことやいただいたものがたくさんありました。それを無駄にせず自分の中に取り込んで、力にしたいです。今回は現場ですごく引っ張っていただいたので、これからは自分が皆さんと並んで、お芝居をしていて自分からも何か少しでも渡せるようになれたらと思っています。そのためにもっと勉強しないといけないし、単純にもっといろいろな作品に携わりたいです」。

――恋愛モノでもホラーでも?

「もちろん、やったことのないものは何でも挑戦してみたいです。できるかわかりませんけど、イケイケみたいな役もやりたいです。ワーッとなる自分もいないとは思ってないので(笑)。役でそんな人になれたら、楽しいだろうなと思います」。

 
 


 
 

木竜麻生(きりゅう・まい)

生年月日:1994年7月1日(24歳)
出身地:新潟県
血液型:A型
 
【CHECK IT】
中学2年のときに原宿でスカウトされ、2010年にデンソーの企業CMに出演して注目される。2014年に映画「まほろ駅前狂騒曲」で女優デビュー。今年公開の映画「菊とギロチン」にオーディションで約300人から選ばれて主演。その他の主な出演作は、映画「アゲイン 28年目の甲子園」、「グッドモーニングショー」、「Re:フレンド」、ドラマ「アイアングランマ」(NHK BSプレミアム)、「デリバリーお姉さん」(tvk)など。初の写真集「Mai」(リトルモア)が発売中。映画「鈴木家の嘘」で第31回東京国際映画祭の東京ジェムストーン賞を受賞。映画「鈴木家の嘘」は11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
詳しい情報は公式HPへ
 
 

「鈴木家の嘘」

詳しい情報は「鈴木家の嘘」公式HPへ
 

 

 

(C)松竹ブロードキャスティング
 
 

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