FRESH ACTRESS 中屋柚香

FRESH ACTRESS 中屋柚香

PHOTO=小澤太一 INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

園子温監督の配信ドラマ「愛なき森で叫べ」で話題
初演技で生意気で狂気をはらむヒロインの妹を熱演

 
 

――中学生の頃から映画をDVDでたくさん観ていたそうですね。

「TSUTAYAさんに行っては借りて、また行っては借りて……みたいなことをずっとしていました。週末にまとめて何本か借りたり、学校がある日も徹夜で観たり」。

――きっかけになった作品があったんですか?

「たまたま園子温監督の『紀子の食卓』を観て、すごく好きになったんです。それから他の作品もいろいろ観るようになりました。自分も園監督の映画に出たいと思うようになって、そのために女優になろうという、おかしな考え方をしていました(笑)」。

――園監督作品のどんなところに、そこまで惹かれたのでしょう?

「『愛のむきだし』とか『冷たい熱帯魚』とかも全部観ましたけど、特に引き付けられたのはやっぱり『紀子の食卓』でした。私、中学時代は友だちが少なくて、何者かになりたいのに何もできない歯がゆさを感じていて。そんなときに観て、登場人物たちが閉塞した状況から解放されていくのに、救われた気持ちになったんです」。


――他の監督の作品も観ていたんですよね?

「いろいろ観ています。高校生になってから洋画も観るようになって、すごく好きなのが『動くな、死ね、蘇れ!』というロシア映画です。ヴィターリー・カネフスキー監督が街で13歳くらいの男の子が煙草をふかしながら両脇に女の子の肩を抱いて歩いていたのをスカウトして、1本作ったんです。自由が利かなくて苦しい感じは、園さんの作品と通じるものがありました。最近だと池脇千鶴さんのお芝居が大好きで、出演された映画をよく観ています」。

――中学生時代もラブコメ系は観なかったんですか?

「苦手でした。何か痒くなっちゃうんですよ(笑)。でも、最近観始めたら面白かったです」。

――さっき少し出ましたが、学校ではどんな子でした?

「小学生の頃は本当に目立ちたがり屋でした。5歳からダンスを習っていて、人前に出るのが好きで、学芸会で『オズの魔法使い』をやったときは、ドロシーから魔女まで女子ができる役は全部オーディションを受けました(笑)。でも、中学に入って『ちょっとおとなしい子をやってみるか』と思ったら、本当に友だちがあまりできなくて。さらに茶道部に入って誰にも見られてないのを楽に感じて、毎日ほぼしゃべらずに過ごしました」。

――病んでいたわけではなくて?

「そういうわけではなくて、ただ友だちがいませんでした。高校でダンス部に入ったら、自然と友だちができて、また活発になったので、中2病だったんですかね(笑)?」。

――今年3月までは美大で演劇を学んでいたとか。女優になることを見据えて進学したんですか?

「どちらかというと脚本を書きたかったんです。オーディションとか受けていませんでしたけど、才能のある人は20歳までに何かを成し遂げているはずと考えていたので、自分はもう女優さんにはなれないと思っていて。ちょうど20歳のとき、園子温監督の『愛なき森で叫べ』のオーディションがあったので、本当にギリギリでした」。


――SNSで一般公募を知ったそうですね。

「そうです。当時の私は演技経験がまったくなく、事務所にも入ってない、ただのド素人の小娘が来ちゃった感じでしたけど、自分の中では『これに落ちたら人生終わり』くらいに考えていて。オーディションはやり切るだけで、手応えは何もなくて、そのままトイレの個室で『もうダメだ……』と泣き崩れました」。

――でも、合格して。

「外で1人でごはんを食べていたら電話が来て、オーディションで演じた役ではなかったんですけど『お願いします』と。『エーッ!! ホントに!?』と嬉しすぎて、街中を『園監督の映画に受かったよ!』と言いながら歩きたいくらいでした(笑)」。

――中学時代からの念願ですからね。ただ、「愛なき森で叫べ」は7人が殺された北九州監禁殺人事件がモチーフで、中屋さんが演じた尾沢アミは詐欺師の村田丈(椎名桔平)に心奪われ、家族の虐待に加わる役。初演技でやるにはヘヴィだったのでは?

「よく『大変だったね』と言われますけど、あまり大変という自覚はありませんでした。とにかく園監督の作品に携われるのが楽しくて。最初はどこから芝居を始めたらいいかも、どこまでカメラに映っているかもわからなくて、演技でもたくさん悩みましたけど、苦しいとは感じませんでした。とりあえず噛みついていくしかないなと」。

――台本を読んで、アミをどう演じようと思いました?

「台本は頻繁に変わったんです。前日いただいた台本に、現場でまた別の差し込みが入ったり。だから、アミの印象は最初、生意気で嫌な感じでしたけど、やっていくうちに私の想像力では追い付かない気がして。ただアミを下ろす、自分自身を排除することをしました。映画が配信されてから、『妹役の子がムカつく』という声をいっぱいいただいて役者冥利に尽きますけど、演じているときはアミが嫌なヤツとは思わなかったです。自分がアミだから『お姉ちゃんが悪いんでしょう』くらいな気持ちでした(笑)」。

――アミの口調とかも自然に出たもの?

「そうですね。自分で観たら、ビックリするくらい生意気な話し方をしていました(笑)。私は普段『てめえ』とか言わないので。『こんなに睨んでいたんだ』というのもありました」。

――確かに中屋さんご自身はアミと違って朗らかそうですが、目力は強いですね。

「そうみたいですね。あとはお姉ちゃん役の鎌滝(えり)さんが全力でぶつかってくださったので、私も全力で応えました。叩くシーンも『振りではなくて本当に叩いてもらったほうが気持ちが入る』ということだったので、そうしていたら、私ものめり込んで演じることができました」。


――監禁から逃げ出そうとして姉の美津子を追い掛けて引き戻すシーンは、鬼気迫るものがありました。

「その撮影の日は朝からまったくお姉ちゃんに話し掛けず、顔も見ないで撮りました。かなり緊迫していましたね」。

 
 

演じていて役か自分かわからなくなって
あるはずのない記憶が蘇ったりしました

 
 

――全体的に「ここはこうしよう」とか考えずに演じた感じですか?

「とりあえずやってみて、園監督に『もっと』とか『抑えて』と言われたら直す形でした。園監督の撮り方は段取りをやったら、そのまま本番で、テストがないんです。撮って撮ってで、毎回全力でやるしかない。私も最初は『こういう言い方をしよう』とか考えましたけど、それだと全然通じないんです。現場の熱にはかなわない。だから何も考えずフラットに、ただ気持ちを乗せていくだけでした」。

――悩んだのはどういうことですか?

「撮影中はアミになることやお姉ちゃんを憎むことに精いっぱいで、悩む余裕もありませんでしたけど、撮り終わって自分に戻ったとき、『出し切れていたかな?』と不安になりました。でも、共演の方に『監督がOKならOKと信じていい』と言われました」。

――アミが口八丁の村田にのめり込んでいく心情はわかりました?

「椎名さんは本当にカッコイイですし、ああいう軽妙なのになぜか熱がないような巧妙な話し方をされたら、フラッと行っちゃいそうだと、アミとして感じました。『この人の言うことを聴いていたい』とどんどん惹かれていって……。恐ろしいです(笑)」。


――姉の美津子に冷酷になっていったのも、恋敵のように思っていたから?

「そうですね。家族全員、母とか姉とか妹とか役割を全部離れて、ただの女になって争いが生まれたので、村田に全部壊されました。でも、アミは壊された自覚が一切なくて、自分が村田に愛されていると信じて疑わない。ある意味、ピュアなのかなと思いました」。

――村田との情事を美津子に見られたときのアミの目は、特に怖かったです。

「本当ですか? 睨もうとはしませんでしたけど、あそこのシーンも緊迫していました。鎌滝さんもたぶんヒロインのプレッシャーがあって、いろいろ考えてらっしゃってズタボロのときで、お姉ちゃんか鎌滝さんかわからなかったし、私も自分なのかアミなのかわからなくなっていて」。

――「愛なき森で叫べ」には園監督のこれまでの作品のエッセンスが詰まっている感じもして、アミが死体を解体するシーンもありました。

「本物の豚の臓器を人間の模型に入れていました。両親役のでんでんさんと真飛(聖)さんが撮影の裏では本当にやさしくて、『お父さん、お母さん』と呼んでいたんです。アミは両親を憎んでいましたけど、首を切断するために刃物を立てた瞬間、あるはずのないアミの記憶が蘇ってきて。『このお父さんとお母さんに育てられたんだ……』と涙がブワーッと出てきちゃいました」。

――あそこで泣き出したのは、台本にはなかったんですか?

「本当は泣かない予定だったので、自分でもビックリしました。憎んでいたとはいえ、自分の両親を自分の手で……ということで、理解しがたい部分で心が動いてしまったんでしょうね」。

――そういうことも含め、精神的な消耗は激しい撮影でした?

「激しかったです。立ち止まって『苦しい』というより、やりながら削っていく感じでした。クライマックスの森のシーンは本当に寒くて、体が震えていたらいけないから、草を握って耐えたりしていました」。


――あそこもアミの見せ場でした。

「私は痛みを意識していたんですけど、園監督に『かわいくやって』と言われました。アミの心の拠りどころは結局村田しかなくて、すがり付くのをかわいく見せてほしいと。何回撮っても村田さんに気持ちが届かないから、苦しくなりました」。

――それだけ役と同化していたんでしょうね。この映画が昨年10月、ドラマシリーズが今年4月からNetflixで配信されて、身の周りでも反響はありました?

「もともとオーディションの募集要項に『フルヌード大丈夫な方』とあったんですけど、私、お父さんに脱ぐことを言ってなくて(笑)。まだ何も言ってきませんけど、たぶんビックリしたと思います」。

――でも、アミはそんなに脱いでなかったのでは?

「ひとつフルヌードのシーンがあったんですけど、カットされました。村田とのシーンも服を着ていたじゃないですか。園監督が『主演でない役で脱ぐのはもったいない』と言ってくださって、ああいう形になったんです」。

――ということは、園監督は別作品で中屋さんをより大きな役で起用することを考えていらっしゃるんですかね?

「どうでしょう? ありがたいことに『愛なき森で叫べ』の取材で、監督が『中屋柚香が一番良かった』と言ってくださって、その記事を一時、携帯の待受にしていました(笑)」。

――今後の女優活動にはどんな展望があります?

「まだ自分を女優というのはおこがましいですけど、お芝居が大好きになったので、いろいろな現場で経験を積んで、さまざまな役を演じて、失敗もしてみたいです」。

――仕事以外で成し遂げたいこともありますか?

「面白いことは何でもやりたいです。脚本もそうですし、趣味では写真や刺しゅうも好きでギターも弾きます。何かの分野で成功したいと強く思っているわけではないですけど、探求心は強くて、いろいろ試してみたくなっちゃいます」。

――ギターは今も弾いているんですか?

「家でちょこちょこ弾いています。最近は椎名林檎さんとか東京事変さんとか。あと、戸川純さんの『蛹化の女』が好きで、園監督たちとカラオケに行ったときに歌ったら、監督が『これだ』と作中で使ってくれました」。


――しかし、中屋さんの世代で戸川純さんを聴くとは珍しい。

「中学のとき、昔の音楽を聴くのが好きだったんです。さだまさしさんの『関白宣言』とかもギターで弾きます。逆に、流行の曲はあまり追えてないかもしれません」。

――映画の趣味もそうですけど、感性が独特ですよね。普段はアミと通じる部分はありますか?

「全然ないです。私は長女で妹が2人いて、どちらかというと美津子みたいに『しっかりしなさい』と言われて育ってきたので。男の人を取り合ったこともありません(笑)」。

――感情をむき出しにすることもなく?

「ないですね。腹が立っても、その場では怒れなくて、あとで『こう言えば良かった……』となるタイプ。だから、アミを演じて好き放題できたのは楽しかったです(笑)」。

 
 


 
 

中屋柚香(なかや・ゆずか)

生年月日:1998年2月24日(22歳)
出身地:東京都
血液型:不明
 
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2019年にNetflixオリジナル映画「愛なき森で叫べ」で女優デビュー。2020年4月よりドラマシリーズ「愛なき森で叫べ:Deep Cut」が配信中。ドラマ「年下彼氏」(テレビ朝日系)に出演。
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